法定雇用率の上昇に伴い、更なる雇用拡大が求められる中、はたらく機会の創出や、就労を通じた障害者の定着や活躍、企業活動への貢献と価値創出が求められています。そのために、自社の採用や雇用方針に沿って、一人ひとりのはたらく意欲や職務能力を評価するアセスメントが重要となっています。
そこで今回は、障害者のアセスメントの概要や採用時と採用後におけるアセスメントの具体的な内容について詳しく紹介します。

目次

障害者雇用のアセスメントとは

障害者雇用におけるアセスメントとは、障害者の採用拡大や定着、活躍を持続させるために、人材を適切かつ客観的に調査・評価することです。障害者雇用におけるアセスメントの主な目的は次の3つです。

  • アサイン予定の業務や配属組織に対する適性を知ること
  • 将来的な定着と活躍の可能性を知ること
  • 面接者の評価を定量的に裏付け、採用の精度を高めること

障害者人材のアセスメントの特徴

障害者人材におけるアセスメントでは、人により職務能力や、はたらく意欲、障害を前提としてはたらき続ける上での必要な配慮が異なります。この点が、健常者人材と障害者人材におけるアセスメント項目の大きな違いと言えるでしょう。

この図は、能力や意欲を基に、障害者を3つの層に分けたものです。

  • 第1層:はたらく意欲や職務能力が高い層
  • 第2層:一定の配慮が必要だが、生産性に貢献可能な層
  • 第3層:職務能力に制約があり、障害配慮や重視される層

例えば、必要な配慮が少なく、自律的にはたらける第1層に対しては、職務能力のレベルや成果に対するコミットが重視されます。第1層は健常者人材とおおよそ同じアセスメントを適用できると言えるでしょう。
一方、障害配慮が重視される第2~3層に対しては、安定してはたらけるか、毎日出勤できるか等の安定就業度を重視する必要があります。
障害者雇用特有のアセスメント項目としては、障害を前提とした配慮提供が就業上どの程度必要なのか、障害にどの程度ケアする必要があるのか、という「配慮提供とケア要件」があります。特に、第2層や第3層に属する障害者を採用する場合は、配慮の比重が大きくなるため、自社が提供可能な配慮で就業可能な人材かを見極めることが重要になります。

このように、職務能力やはたらくことに対する指向性の違いによりアセスメントのポイントは異なります。ただし、どの層を雇用するにしても、能力と同時に「はたらく意欲」「はたらく目的」を確認することが重要です。

福祉機関によるアセスメントとの違い

障害者への就労移行支援や生活支援を行う福祉の分野では、以前から障害者に対するアセスメントが行われてきました。しかし、福祉機関におけるアセスメントと民間企業のアセスメントには以下のような違いがあります。

福祉機関(就労移行支援事業所など、就労を支援する福祉事業所) 障害者を雇用する民間企業
主な目的 就労できるかどうか 企業の一員として価値を創出できる人材かどうか
内容 ■就労面に関する情報の把握
・障害者が自分自身の「はたらく力」を最大限に発揮できるように支援するために必要な情報を確認する
■採用時
・適性検査、面接、実習 (雇用される企業や業務に就業する適性の有無を判断・面接で受けた印象や面接官の評価が間違っていないかを客観的に見極める)
■採用後(雇用時)
・面談等を通じ、能力・適性・タイプなどを客観的に評価・判断
・人材と職務のミスマッチ防止と、限りある人材資源の有効活用

福祉機関におけるアセスメントの主な目的は「就労できるかどうか」を判断することです。さらにはどのような支援・訓練をすれば就労可能になるかなどの支援目的で実施されるものです。主に、就労支援に必要な情報として「あいさつ」「身だしなみ」「人間関係」「毎日通える体力やはたらく意欲の有無」、「向いている業務(職種・職域)」などを確認しています。
一方、企業によるアセスメントでは、“就労できるかどうか”に留まらず、企業ではたらくことを通じて、企業の一員として価値を創出できる人材かを評価する必要があります。具体的には「用意した業務に従事できるか」「その業務に必要な能力があるか」「業務を通じて企業が求める価値発揮ができるかどうか」「上司からの指示や報連相、同僚とのコミュニケーションができるか」などを見極める必要があります。
福祉機関におけるアセスメント項目は企業においても重要な情報ですが、本業のユーティリティ業務に従事する場合や、本業の収益性向上に対する直接貢献を目的として障害者雇用に取り組む場合は、福祉的なアセスメントに加え、自社の一員として活躍できる人材かを評価するためのアセスメントを実施することが必要です。

障害者雇用に対する目的や役割によって変わる

雇用目的によるアセスメントの違いについて、もう少し詳しく解説します。
企業における障害者雇用の目的・役割として、代表的な4つを上げたものです。

法的義務の遵守は、法定雇用率達成という法的義務を果たす目的のことで、多くの企業がこの目的から雇用を進めています。法的義務の遵守に加えて、自社やグループ事業におけるユーティリティ領域(本業に資する業務)で障害者が活躍することで貢献することを目指す企業や、一般雇用・事業活動と同様に収益を生み出し、企業貢献を果たすことを目的とする企業があります。また、自社やグループのためだけでなく、社会の公器として、社会的貢献を果たすことを目的として定めている企業もあります。
これらの雇用目的により、アセスメント方法も異なります。例えば「法的義務の遵守」「社会的貢献」が目的の場合、就労移行支援事業所などの福祉機関で実施しているアセスメントや職業準備性を確認しますが、「本業のユーティリティ領域による貢献」が目的の企業は、一般人材アセスメント方法を加えます。「本業の収益性に貢献」が目的の企業では、さらに、スキルチェックやストレス耐性などの精緻なアセスメントが必要となるでしょう。
また、先に述べた通り、採用する障害者層によってもアセスメントで重視する項目が異なります。ただし就業においては「何ができるか」「どうできるか」が重要であり、障害の種類だけで層を区切ることはほとんど意味をなしません。

それでは、自社で活躍する人材を見極めるためのアセスメントのポイントについて、次の章から詳しく見ていきます。

障害者採用におけるアセスメントのポイント

障害者採用におけるアセスメントのポイントを解説します。

人材要件の明確化がアセスメントの精度を決める

アセスメントのためには、どのような人材を採用すべきかの「人材要件」を明確にしておく必要があります。人材要件を定め、整合性を確認・整理することで、適切なアセスメントを実施することができます。
人材要件を定めるポイントは、障害者雇用の目的や期待する役割の元、職種・業務の種類やレベルを決めておくことです。アサインしたい業務が大枠でしか決まっていない場合はオープンポジション採用も可能ですが、業務ありきで採用する方が、求める能力や資質、定着可能性や業務ストレス耐性度合、採用チャネル、提供できる配慮内容での定着可能性やなどが明確になるため、アセスメントの精度や採用後のミスマッチを軽減することができます。
人材要件は、人事だけではなく、配属先の担当者とも認識を擦り合わせておきましょう。

採用戦略と整合性の取れたアセスメントを実施する

アセスメントにおいては、求める能力や資質を有した人材か?自社の採用戦略と整合性の取れた人材か?を確認、整理することが重要です。具体的には、「障害者のはたらく志向性」「自社の人事制度」「アサインする職務・職域」「提供可能なはたらき方・環境」の4点で確認すると良いでしょう。

(1)採用したい障害者の「はたらく志向性」との整合性:
対象となる障害者が「安定志向」なのか、「活躍志向」なのかを見るアセスメント
(2)障害者の「はたらく志向」と、提供可能な人事制度の整合性
障害者のキャリアパスに対して提供可能な人事制度があるかを見るアセスメント
(3)アサインする職務・職域との整合性:
アサインする業務には不要な能力要件になっていないかを見るアセスメント
(4)提供可能なはたらき方・環境の整合性:
職場環境や自社で提供できる配慮要件など、提供可能なはたらき方があるかを見るアセスメント

(1)「採用したい障害者の『はたらく志向性」との整合性」とは、例えば必要な配慮を受けて安定就業を望む傾向が強い障害者と、自律性と高い職務能力を発揮できる障害者では、はたらく志向や必要なマネジメント、制度が異なるため、自社が採用すべき人材がどちらの傾向に当たるのかを整理し、その傾向に当てはまる人材かを見極める必要がある、ということです。

(2)「障害者の『はたらく志向』」と提供可能な人事制度の整合性」は、例えばはたらく志向性が高くキャリアアップを目指したい障害者の場合、自社に障害者の昇給昇格の制度がなければ、キャリアアップが図れないことになり、ミスマッチが生じる可能性があります。

(3)「アサインする職務・職域との整合性」は、職務・職域に必要な能力を有した人材かを見極めることです。例えば新卒採用の場合の確認項目は、「データ入力業務ができるか」「上司の指示命令を聞ける・聞けない」「報連相」など、企業全体の業務遂行に必要な基礎的な能力や伸びしろ、適性を見極めます。中途採用の場合は、アセスメント予定の業務遂行に必要な能力と適性などを重視します。 ここで注意したいのは、必ずしも必要のない経験や能力、障害者に向かないことばかりを求めないことです。例えば作業手順が定型化されたデータ確認・入力業務であれば、高度なシステム開発能力やデータ解析経験は必ずしも必要ではありません。あくまで、自社の雇用環境で業務を遂行し、活躍する上で必要な資質や能力を持っているかを見極めることが大切です。

(4)「提供可能なはたらき方・環境の整合性」については、例えばオフィス勤務だけでなく在宅勤務が可能か、在宅勤務でも必要な配慮が提供できるか、などを確認します。一般部署で健常者社員と共にはたらくのか、障害者の集合配置部署や特例子会社ではたらくかによっても異なります。

面接や適性検査も重要なアセスメント

面接や面談も重要なアセスメント手段です。はたらく意欲が高い人でも面談すると自己認知ができていない場合があるためです。面談では、職務能力だけでなく、「なぜはたらきたいか」「どうはたらきたいか」「障害をどう受容しているか」など、本人のはたらく意向や自己認知を確認しましょう。
また、面接で受けた印象や面接官の評価が間違っていないかを客観的に見極める手段として、適性検査を実施することもできます。一般的な適性検査ツールで調査、判断できるものは、適性検査に含めることがポイントです。また、より効果的にアセスメントするために、面接や面談を併用すると良いでしょう。
アサイン予定の業務により制約がありますが、実習が可能な場合は、実習を通して、当該業務での就労可否を判断することは、有効なアセスメント手法になります。

採用要件と適性検査や面談、実習でのアセスメント内容・結果は、人事だけでなく、配属部門の管理職や現場リーダーとも共有する必要があります。現場と共有できていないと、必要な配慮について本人が何度も伝えなければならなくなり、負担や不満につながります。

障害者採用後の人材アセスメント

次に、障害者採用後のアセスメントについて見ていきます。

採用後のアセスメントの目的

採用後のアセスメントは、育成や定着、活躍といった「人材戦略」のために行うため、人材アセスメントと呼ばれます。健常者人材と同じく、適切な目標設定と人事評価を行うにあたり、評価基準を見極める作業としてアセスメントを行います。

就業の変化に気づく。意欲や成果を評価し育成する。

人材アセスメントで大切なことは、変化に気づくことです。障害の変化(別の障害を発症した、服薬で安定した、など)や、仕事への意識、就業状態の変化を確認します。また障害の変化だけ把握すれば良いのではなく、それ以外の変化も確認することが大切です。例えば会社が関与するのは難しいですが、家庭環境やプライベート生活でのトラブルは就労状況にも表れます。

また、アセスメントの目的は変化を調べることだけでなく、はたらける状態を維持できるよう対処・サポートすることも大切です。変化が生じたり、その変化を伝えたからといって雇用契約に悪影響にはならないと伝え、安心してもらうことも大切です。

人材戦略としてのアセスメントでは、はたらく意欲や成果を評価し、キャリアアップなどの育成を図ることも大切です。はたらく意欲の高い第1層には目標を達成し会社への貢献が認められれば、昇格・昇給する機会を与えること、第2層、3層に対しても、適切な目標を設定したうえで、はたらくモチベーションを維持し、一定以上の生産性(質と量)で業務を行うよう導くことが大切です。

例えば当社パーソルダイバースでは、有期雇用から無期雇用に転換する際に試験を実施しています。無期雇用になるには上司の推薦や試験に通ることが条件になりますが、その際のアセスメント項目として「はたらく意欲」や「はたらく態度」「はたらき方」を掲げています。

【障害者雇用の人事評価と制度設計についてもっと詳しく!】

面談や評価ツールを活用する

採用後は、1on1などの定期面談や評価面談もアセスメントの手段として活用できます。評価する際は、「評価ツール+面談結果」で判断します。評価ツールは、外部機関を使用し、客観性を担保しましょう。評価ツールを使用する頻度は、2~3年に1回程度が一般的です。

おわりに

障害者の活躍を見据えて人材活用を図るためには、人材要件の整理と明確化(初期策定と更新)が必要です。障害者の雇用目的から人材要件を整理したうえで、一貫した整合性を保持して採用活動を進めることが大切です。
人材要件に基づく採用アセスメントによって、求める資質や能力の有無や、必要な配慮を適切に見極め、採用のミスマッチを防ぎます。採用後は人材育成や定着、活躍を見据えた人材アセスメントが欠かせません。
障害者の人材活用と雇用拡大を実現するために、人材要件をもとにしたアセスメント実施をおすすめします。