当社では障害者の人材紹介サービスを行っており、今までに1000社以上の採用をご支援致しました。その過程で、多くの企業より「求めているターゲット人材が集まらず採用につながらない」というご相談を頂きました。
具体的には「面接をしても求める要件を満たす人材がいない」「身体障害者の採用実績しかないが、近ごろは身体障害者の応募がない」といった内容です。
そこで今回は、当社で実際に企業の障害者雇用を支援しているリクルーティングアドバイザーの話から、求める人材が集まらない課題に対する解決のヒントについて、事例をもとに紹介します。

目次

人材募集、母集団形成がうまくいかない理由

障害者雇用を進めるものの「採用募集をかけても思い通りに応募が集まらず、母集団形成ができない」と課題を感じている企業は少なくありません。なぜ人材が集まらないのか、その理由としては主に次のようなことが考えられます。

1. 障害者雇用市場の変化と、採用ターゲットのミスマッチ

現在の障害者雇用市場の変化と、企業が求める採用ターゲットにミスマッチが起き、思うように採用が進まない企業が多くなっています。特に、今まで身体障害者など、特定の障害種に偏った採用を進めてきた企業は、雇用市場の変化を十分に知っておく必要があるでしょう。

出典:厚生労働省 平成28年生活のしづらさなどに関する調査(全国在宅障害児・者等実態調査)結果2

上の図は厚生労働省が発表した、障害別の年齢階層割合です。グラフから見て取れるように、身体障害者が高齢化し、精神・発達障害者の若年層が増加(障害者手帳を持っている人が増えている)傾向にあります。
これまでは、必要な配慮や雇用管理のイメージがしやすい、身体障害者、特に長期就労の観点や、社内人員構成の観点から若年層をターゲットに採用を進める企業が多かったと思います。
しかし上の図から分かるように、現在は身体障害者の半数以上は50歳以上で、20歳から39歳までの身体障害者は4.0%しかいません。この少ない若年層に対して各社の採用ニーズが集中しているという状態なのです。

2. 障害への先入観から「はたらくイメージ」が持てない

先入観や障害への知識が十分でなく、自社で「障害者がはたらける」イメージを持てないため、採用を躊躇する企業も多いと思います。
“障害”と聞くだけで、重度障害をイメージされる方や、先入観によって誤った認識を持っている方も多くいらっしゃいます。その結果、「●●という障害はコミュニケーションがとりにくいだろうから現場での採用は難しい」、「管理部門は充足しているし、採用枠のある部門でも業務多忙で雇用が難しいという状況で、配属先がない」と思い込んでしまっているケースもあるようです。
加えて、現場で雇用管理ができない、ファシリティ面での環境が整っていないなどを理由に採用ターゲットを狭めてしまい、結果として母集団形成や採用が難しくなっている企業も多く見られます。

解決のヒントは”採用ターゲットの見直し”

このような理由から人材が集まらないと悩む企業が、採用を成功させるためには、障害種別で採用ターゲットを狭めるのではなく、能力や人柄、志向性などから人材要件を見直すことをお勧め致します。

1. 業務内容を見直し、要件の優先順位を精査する

障害者採用を考える時には、一般採用と同様に「どのような業務で人員が不足しているのか」「どのような業務を任せたいか」など、障害者に任せる業務から見ていきます。業務において必要な経験や能力は何か、どのような志向を持った人材であれば従事できるのかを整理し、求める採用ターゲットを定めていきます。
大切なのは、障害や特性に限らず「その業務や作業ができる人材かどうか」です。そのための絶対必須の条件(must条件)と、必須ではなく優先順位を下げられる条件(want要件)を明らかにして、分けて考えることで、採用対象をひろげることができるでしょう。

どのような業務にどういう特性の障害者が適しているのかは、他社の雇用事例を参考にしたり、支援機関や、私達のように障害者雇用支援を行っている業者に相談するとよいかもしれません。

就労移行支援事務所に通所している障害者は、事業所での訓練によって自身の障害特性や対処方法を理解し、受け入れができている人が多いと言えます。どのような障害特性があるのかを障害者側と企業側の双方で共通認識できることは、雇用・定着のための第一歩となるでしょう。

2. 障害者のはたらき方を具体的にイメージする

自社で障害者がどのようにはたらけるのか、“リアリティ”を持ってイメージができることが重要です。そのためには、障害の知識や理解を深めるのはもちろんのこと、採用候補者の障害特性や人となり、前職でのエピソードなどを聞いておけると、よりイメージが湧きやすいかもしれません。
障害特性は人により異なるため、選考の際は「障害」にとらわれすぎず、一人ひとりの特性によって適性有無を見ることが大切です。加えて、自社の社風・文化や配属部署の業務の進め方に適しているか、自社の雇用方針に合致した志向を持っている方かを見極める必要があります。

はたらき方の具体的なイメージを持ち、人事担当者と配属現場の責任者の間で共有することができれば、一緒にはたらける方かどうか、どのような配慮がどこまで必要なのか、スムーズに業務を進めるために気を付けることは何か、気付くことができます。

それでは実際に、私達が支援した企業の、採用成功例をいくつかご紹介します。

障害への思い込みや理解不足を解消し、採用ターゲットを変更できた採用事例

1. 免疫機能障害の採用を可能にした大手企業の事例

従業員500名を超える大手商社では、障害者雇用を進めていたものの、法定雇用率にわずかに達しておらず、新たに採用の検討を開始しました。
採用ターゲットとして伺ったのは、主に以下の4点でした。

  1. 身体障害者限定。できるだけ若い方が望ましい(長期で活躍してほしいという意向から)。
  2. 電話対応に支障のない方。
  3. 業務に活かせる専門知識を持っている方。
  4. 最低限の配慮で、一般雇用枠でもはたらける方。

しかし身体障害者の若年層は対象が少ないこと、電話での対人コミュニケーションや専門知識が必要となる業務である点において、聴覚や視覚障害の方では難しいと思われることから、要件に合致する人材は見つけにくい状況でした。またオフィス環境の問題で、車いすの利用も難しい状況でした。

そこで私達は、免疫機能障害のある方の採用をご提案し、行政書士の資格を持った方をご紹介しました。当初、採用担当者も配属部署の責任者の方も、免疫機能障害に対する知識や理解もほとんどなく、採用を検討したことすらない状態でした。そのため、免疫機能障害とはどのような障害なのかを、国連や公的機関が発行している資料をもとにご紹介し、現在の採用ターゲットの対象ではないがなぜ適しているのかを説明しました。

その中で重点を置いてお伝えしたことは下記の3点です。

  1. 服薬によりウィルス量が検知以下まで下がっている方は、空気感染は勿論のこと、日常生活における接触での感染リスクがないこと
  2. エイズは発症しておらず、その他の合併症もないこと
  3. 3カ月に1度通院し医師の診察を受けており、服薬によって状態も安定していること

このような点から、最小限の配慮と雇用管理で安定して就業でき、長期的に活躍できる障害であることを理解していただきました。

このように、障害名だけで、どのような障害かの理解が十分でないまま、採用対象外と判断してしまうケースは少なくありません。特に免疫機能障害は「周囲にうつるのではないか」「長くはたらけないのではないか」という誤解から、障害者雇用実績が豊富な企業でも採用不可としていることが多いほか、そもそも免疫機能障害は障害者雇用の対象にならないと、間違った判断をしているケースも多く見受けられます。
正しい知識と理解によって、採用対象を見直し、採用に繋げることができます。

2. 若年層の発達障害者を採用した中小企業の事例

映像や通信機器を扱う従業員数200人のある中小企業では、必要な雇用数に達していなかったことからハローワークから指摘を受け、障害者の採用を急いでいました。

最初に伺った人材要件は以下の通りでした。

  1. 若年層の身体障害者。
  2. 専用のシステムに顧客情報やexcelデータの入力ができる方。
  3. 障害への自己理解があり長期的に就業できる方。
  4. 勤怠が安定しており、コツコツ業務ができる方。
  5. 会社の雰囲気に合う方。

この企業では以前、身体障害者を雇用していましたが、雇用後に精神障害も併せ持っていたことが判明。その後うつ病による体調不良で欠勤が続き、半年で退職した経緯があったため、精神障害者の雇用に積極的ではありませんでした。

私達は上記の要件を踏まえ、まず業務内容をヒアリングし、業務に必要な要件を整理しました。その上で、自身の障害を受容しており、障害者雇用枠ではたらくことを理解している20代の発達障害者の方をご紹介しました。

募集対象を身体障害に絞っていたこともあり、当初は発達障害の方を採用することに難色を示されていましたが、現在の条件では母集団形成が非常に難しいということをお伝えした上で、なぜ発達障害の方が適しているのかを丁寧に説明しました。
発達障害は他の障害と比べ、特性への配慮と必要な職場環境が整っていれば勤怠が安定しやすい障害であること。正確性・緻密性をもってコツコツと丁寧に取り組める発達障害者の特性は今回のデータ入力の業務とマッチすること。メールなどのツールを使うことでコミュニケーションエラーは起こりにくくなること。やるべき作業や手順、指示は明確かつ具体的に行うこと。これらを一つひとつ紹介し、発達障害への理解と、自社ではたらくイメージを持って頂くようにしました。

こうした説明を、採用担当者だけでなく配属部署の責任者にも行ったほか、入社前には部署のメンバー向けに説明会を実施しました。その結果、配属部署の方から「(障害特性は)特別なものではなく、自分にも共通するところがあるよね」と、障害を身近に感じてもらえるようになったり、「日々のコミュニケーションで解決できる問題ですね」といった感想をいただきました。受け入れ側が感じている「思い込み」を払拭し、正しい知識とイメージを持ってもらうことに繋がったのです。

このような取り組みにより、採用では業務とのマッチングが重要であることを改めて認識していただき、採用要件が見直されました。その後は募集から採用までスムーズに進むようになりました。

3. 採用ターゲットの変更により複数名の採用に成功した事例

従業員3000名を超える関西の建築メーカーでは、以前からはたらいていた社員が病気になり障害者手帳を取得したケースはあったものの、障害者を新規で採用した経験はありませんでした。

最初に伺った人材要件は以下の通りでした。

  1. 身体障害者の方。社内の人員構成上できれば若手の方希望。
  2. 業務内容は経理の補助業務や、受注データ入力及びチェック業務。
  3. 制度上、契約社員としての雇用となり、年収は200万円台。

まずは、障害者雇用市場の傾向として、身体障害者は同業他社に限らず異業種含む多くの企業からの採用ニーズが集中していること、高齢化が進み若年層が少ないことを説明し、現在の人材要件では採用は非常に難しい旨を、データを用いてご説明しました。
事実、採用面接を進めるものの、身体障害者の方へ内定をだしても、年収面や雇用形態などで周辺企業と比べ採用競争力が低く、採用が出来ない状況でした。
次に業務を詳細にヒアリングし、必要な要件を整理していきました。その結果、業務内容との相性がよいと考えられる発達障害者の採用を提案し、若年層の方を中心にご紹介しました。
また、障害に関する理解を深め入社後の定着をはかるため、人事担当者だけでなく部門長や担当役員、また実際に業務を教える周囲の社員を対象にした研修も実施しました。
一人目の採用が上手くいくと、周囲の方も発達障害者の方は一緒に働け、戦力になるとご認識頂け、最終的には5名の採用に成功されました。
採用内定された方の中には、他社から同社より高い条件で内定を出された方もいましたが、発達障害者の採用・雇用実績があるという点に魅力を感じ、内定受諾を決められた方も複数いました。

雇用市場の変化と採用への課題を把握した上で、採用ターゲットを思い切って変更することで、任せたい業務に適した人材を確保できることを理解していただきました。

採用、その先の定着・活躍のために、私達が大切にしていること

障害者を採用することだけが障害者雇用のゴールではありません。長くはたらき、戦力として活躍し続けられるためには、障害特性はもちろん、必要な配慮や、どのような方なのかを、障害者と関わるあらゆる方に理解してもらうことが大切です。そのために私達は、入社前の研修や説明会を通じてご説明するようにしています。また、障害者雇用市場の傾向や、今の人材要件に縛られず拡大させていくべき理由を、データ等を用いてご説明し、経営層や管理職の方にもご理解いただけるよう取り組んでいます。

障害と一口に言っても、様々な障害の種類があることに加え、特性も一人ひとり違います。そのため私達が人材のご紹介をさせていただく際には、障害や特性ばかりではなく、採用候補者の人柄や性格、どのような方なのか、自身の障害を受容し、はたらく準備(職業準備性)が整っているかを把握し、積極的に伝えるように心掛けています。障害に対してマイナスイメージを持っている方も多いと思いますが、障害自体よりその人自身や人柄を知り、理解してもらうことが大切ではないかと思います。
重要なのは「業務」を滞りなく進められるどうかです。業務に従事できるのはどのような方か、要件を見直すことで採用後に活躍し、企業に貢献できる方はいるのではないか。こうした視点を大切にしています。

おわりに:採用ターゲットを見直し、採用を成功させる

障害者の採用が進まないという課題を解決するためには、現在の雇用市場の変化を的確に把握し、自社の雇用条件であれば、どのような人材を採用すべきか・採用できるのかを知ることが重要です。その上で、自社の業務ができること、はたらける人材像を明確にしましょう。そして、定めている人材要件の優先順位を見直すことで、母集団形成や採用に繋がります。
あわせて、誤解や偏見にとらわれず障害特性を正しく理解すること、障害者が現場でどのようにはたらくのかをイメージし、受け入れ態勢を整えることが大切です。今回ご紹介した事例を参考に、自社の人材要件の見直しを検討されてみてはいかがでしょうか。また、採用に課題をお持ちの企業様への支援や人材紹介も行っていますので、ご興味がありましたらお問い合わせください。