障害者雇用を推進する企業に対する助成金制度は種類が多く条件も様々あるため、どのようなときにどの助成金を申請できるのか分からないという企業担当者も多いのではないでしょうか。今回は、障害者雇用に関する助成金の中でも企業からよく利用されている「特定求職者雇用開発助成金(特定就職困難者コース)」について紹介します。

目次

特定求職者雇用開発助成金とは

特定求職者雇用開発助成金とは、就職が困難とされる方を雇入れする事業主の方に対し、雇い入れに伴い必要となる費用の助成を行う制度です。さまざまなコースがあり、雇い入れる求職者の方や雇い入れの状況などに応じて各種コースのいずれかを選ぶことになります。
用意されている助成金のコースには、以下のようなものがあります。

・特定求職者雇用開発助成金(特定就職困難者コース)
・特定求職者雇用開発助成金(発達障害者・難治性疾患患者雇用開発コース)
・特定求職者雇用開発助成金(就職氷河期世代安定雇用実現コース)
・特定求職者雇用開発助成金(生活保護受給者等雇用開発コース)
・特定求職者雇用開発助成金(成長分野等人材確保・育成コース)
・特定求職者雇用開発助成金(生涯現役コース) ※令和5年度廃止
・特定求職者雇用開発助成金(被災者雇用開発コース)※令和5年度廃止

特定求職者雇用開発助成金制度の、令和5年度の主な見直し(予定)については、以下のリンクをご参照ください。

この記事のなかでは、特定求職者雇用開発助成金のうち「特定就職困難者コース」を中心にご紹介していきます。以下の見出しから詳しく解説しますので、ぜひご参考にしてください。

特定求職者雇用開発助成金(特定就職困難者コース)とは

特定求職者雇用開発助成金(特定就職困難者コース)とは、高齢の方や障害のある方など「就職困難者」と呼ばれる方を雇用保険一般被保険者として雇い入れ、継続して雇用する企業が受給できる助成金です。障害者に限定した助成金制度ではありませんが、障害者雇用関連の助成金の中でもっとも多く利用されています。

なお、障害者雇用における「特定就職困難者コース」の対象者は、身体障害者、知的障害者、精神障害者です。助成金の支給額と助成対象期間は、障害の種類と程度や、短時間労働者(1週間の所定労働時間が20時間以上30時間未満である者)か否かで異なります。また、雇用元が大企業か中小企業かによっても支給額と助成期間に違いがあります。

企業から利用される理由

特定求職者雇用開発助成金(特定就職困難者コース)が利用される理由には、「助成金額が大きい」「企業側の申請難易度が低く、申請しやすい」などが挙げられます。申請に必要な情報を確認することができれば、社会保険労務士(社労士)などに申請代行を依頼せずに人事担当者が申請・手続きを進めることも十分可能です。

他の助成金では求人を出す時点で申請の有無を明記しなければならないため事前準備が必要ですが、特定就職困難者コースの場合、採用後や入社後でも手続きできます。忙しい雇用担当者でも検討しやすい点が、利用しやすさにつながっていると言えるでしょう。

特定求職者雇用開発助成金(特定就職困難者コース)の支給要件と、除外される要件

特定求職者雇用開発助成金(特定就職困難者コース)は、どのような企業・団体が支給の対象となるのでしょうか。ここでは、特定求職者雇用開発助成金(特定就職困難者コース)の支給要件や、除外要件についてご紹介します。

支給要件

  • ハローワークや地方運輸局(船員として雇い入れる場合)、あるいは適正な運用を期すことのできる有料無料職業紹介事業者などの紹介により雇い入れること
  • 対象労働者を雇用保険の一般被保険者として雇い入れること
  • 対象労働者は、障害のある方、60歳以上65歳未満の高年齢者、母子家庭の母、児童扶養手当を受給する父子家庭の父

など

※令和5年度以降は65歳以上の方も対象となる予定です。

除外される要件

  • ハローワークなどが紹介する以前に、事業所と対象労働者との間で雇用の予約がある場合
  • 対象労働者が代表者などの3親等以内の親族である場合
  • 雇入れる前に、3か月を超える実習などを行った場合


上記の要件に当てはまる場合は、支給の対象外となります。

特定求職者雇用開発助成金(特定就職困難者コース)の申請から受給までの流れ

ここでは、特定求職者雇用開発助成金(特定就職困難者コース)の申請から受給までの主な流れをご紹介します。

  • (1)対象者の雇い入れ

ハローワークなどからの紹介があり、対象者要件を満たしていることを確認したら支給申請を行いましょう。その上で、労働局やハローワークへ支給申請のための必要書類を提出します。

  • (2)支給申請の提出

申請に必要な書類をまとめて提出します。必要書類は以下のとおりです。
・支給要件確認申立書(共通要領様式第1号)
・支払方法受取人住所届(初めて申請する場合、口座に変更がある場合のみ)
・勤怠状況等確認書

  • (3)支給申請の審査

申請先で、申請書の内容や支給要件等を確認の上、審査が行われます。

  • (4)支給・不支給の決定→支給開始

審査後、労働局から企業宛に助成金の支給通知が届けられます。起算日の6か月後、初回の助成金が企業へ支給されます。
申請が不可となった場合は、特に連絡はきません。

  • (5)支給対象期ごとの申請

支給対象期ごと(6か月おき)に申請を行います。

特定求職者雇用開発助成金の申請における注意点

特定求職者雇用開発助成金の申請時には、注意すべき点や知っておきたい点がいくつかあります。ここでは、特定求職者雇用開発助成金申請時の注意点についてご紹介します。

法定雇用率を満たしていなくても申請できる

障害者雇用の法定雇用率が未達の場合であっても、特定求職者雇用開発助成金(特定就職困難者コース)の申請は可能です。助成金で障害者がはたらきやすい環境・体制を整え、雇用数の増加につなげることもできます。

申請期間に注意する

申請を行う期間は、「雇入れ日から6か月経過した日から2か月以内」となっています。この期日中に申請を行わなければ助成金は支給されません。ただし、1回目の支給申請をしていない場合でも、2回目以降の支給申請を行うことは可能です。

支給期ごとに申請が必要

助成金の支給期は1期、2期……と複数回訪れます。初回の申請だけでなく、支給期ごとにそれぞれ申請を行う必要があるため、申請漏れのないよう注意しましょう。

申請結果の通知は支給決定時にしかこない

申請が通り、助成金の支給が決定した際は通知が送付されますが、申請が不可となった場合は特に連絡はきません。通知がこなかった場合は、不支給となったと考えられます。

トライアル雇用助成金と併用する場合は第2期支給対象期分から受給可能

障害者トライアル雇用によって雇い入れた対象労働者を、トライアル雇用終了後も引き続き雇用することになったとします。その場合、特定求職者雇用開発助成金の受給は「第2期支給対象期分」からとなるため注意が必要です。

特定求職者雇用開発助成金(特定就職困難者コース)についてよくある質問

制度を利用するにあたり、企業側からよく寄せられる質問を4点ピックアップして紹介します。

Q-1 )知人からの紹介や自社で直接採用した方は対象になりますか?
└ A )支給対象外となります。
ハローワークや地方運輸局、特定地方公共団体や職業紹介事業者(有料、無料)から紹介された労働者を雇用保険の一般被保険者として採用した場合を支給対象としています。それ以外のルートで採用された労働者は支給対象外となります。
Q-2 )有期雇用契約で採用した方は対象になりますか?
└ A )継続雇用が確実であれば支給の対象となります。
対象となる労働者本人の希望または自動更新によって雇用契約を更新でき、65歳以上に達するまで継続雇用し、かつ、2年以上の継続雇用が確実であれば対象となります。一方、勤怠状況や成果等をもとに事業主が継続雇用有無を判断する場合は、対象外となります。なお、令和5年度からは65歳以上の方も支給対象となります。
ただし、自動更新以外でも申請可能な場合があります。各労働局やその他状況によって判断が異なるため、管轄のハローワークや都道府県労働局に確認することをおすすめします。
Q-3 )就業条件が短時間勤務からフルタイムになる予定がある場合、どちらの就業条件で申請すればいい?
└ A )提出時点の就業条件で申請します。
入社時は短時間勤務ですが、何カ月後にフルタイムになると決まっている場合はフルタイムで申請できます。あくまでも予定で決定事項ではない場合は短時間勤務で申請しましょう。もし申請書類一式が届いた時点で勤務時間の変化があった場合は、ハローワークにその旨を相談してください。
Q-4 )対象労働者を解雇するとどうなりますか?
└ A )助成金が受けられなくなります。
支給対象となった労働者に対し、事業主都合による解雇や退職勧奨による任意退職が発生した場合、その後3年間は特定求職者雇用開発助成金が受けられなくなります。対象となる労働者を解雇していないかについて、一般助成金支給要件照会や事業所別被保険者台帳照会によって確認されます。
なお、支給対象期間の途中で離職した場合は、支給対象期分(6か月分)の助成金は原則、支給されません。

まとめ:特定求職者雇用開発助成金(特定就職困難者コース)を利用して人材の確保を

高年齢者や障害者などの就職困難者を継続して雇用する企業を対象とした、「特定求職者雇用開発助成金(特定就職困難者コース)」。「助成金額が大きい」「申請に必要な情報を確認することができれば、人事担当者が申請・手続きを進められる」などの理由から、障害者雇用を推進する企業向けの助成金の中でも多く利用されています。
利用する際は、「申請不可の場合の連絡がない」「支給期ごとに申請が必要」といった点に注意しましょう。