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厚生労働省、障害者の法定雇用率の大幅引き上げを発表

厚生労働省は、2023年1月18日に第123回労働政策審議会 障害者雇用分科会(注1)を開催し、企業に義務付けられている障害者の法定雇用率を、現状の2.3%から段階的に2.7%まで引き上げる方針を発表しました。
閣議決定を経て、障害者雇用促進法の改正となるため、現時点では確定とまではいえませんが、決定的である事は間違いない状況です。
本記事では法定雇用率の具体的な引き上げ幅・引き上げ時期について解説いたします。

(注1) 労働政策審議会 障害者雇用分科会は、雇用率や雇用制度、雇用の継続、就労など障害者雇用にまつわる様々なことを議論・審議し、雇用施策の充実強化を国に対して提言していくことを目的に行われている会議です。

段階的に引き上げ3年後に2.7%、具体的なスケジュールは?

  • ・2026年度から障害者の法定雇用率は、2.7%とする

  • ・ただし、民間企業における法定雇用率は、
    雇入れに係る計画的な対応が可能となるよう、
    2023年度においては2.3%で据え置き
    2024年度から2.5%
    2026年度から2.7%

    と段階的に引き上げることとする

  • ・国及び地方公共団体等については、
    2026年度から3.0%、教育委員会は2.9%へと、段階的な引上げを行う

厚生労働省が当初示した案では、2024年4月より2.5%、2026年4月から2.7%としましたが、受け入れ企業側の体制準備などを理由に、3ヶ月後ろ倒しされ2026年7月からと変更になりました。

障害者の法定雇用率、算出基準を解説

障害者の法定雇用率、算出基準を解説

障害者雇用促進法の第43条2項によれば、少なくとも5年ごとに法定雇用率を見直すことになっており、設定する雇用率についても算出式に基づき試算されます。
前回の引き上げが2018年4月であったことから、5年経過の現状のタイミングにて、算出基準の見直しが行われました。
上記図の通り、2021年労働力調査等からの推計、2021年障害者雇用状況報告をもとに、試算された法定雇用率は約2.715%となりました。
算出式に基づき、2026年度からの障害者雇用率は2.7%と設定され、企業側の受け入れ準備なども加味した上で、段階的な引き上げを行う事となりました。

法定雇用率の推移

直近の法定雇用率引き上げでは、2018年時点で2021年4月までに2.3%への引き上げが発表され、段階的な引き上げが実施されました。民間企業における法定雇用率と実雇用率の推移を見てみましょう。

雇用率引き上げで「障害者の雇用義務」が発生する企業の従業員数は?

法定雇用率の引き上げに伴い、「障害者の雇用義務」が発生する企業の範囲が拡大します。

・法定雇用率が2.5%の場合は40名以上の企業
・法定雇用率が2.7%の場合は37.5名以上の企業
が対象となります。

雇用義務のある企業は、毎年6月1日時点の障害者雇用状況をハローワークに報告しなければなりません。
法定雇用率の引き上げによる、「障害者の雇用義務」が発生する企業の従業員規模と雇用人数を、以下の表にまとめました。ご参照ください。

現行の法定雇用率 2024年4月予定~ 2026年7月予定~
2.3% 2.5% 2.7%
雇用義務が発生する従業員数 43.5名
以上
40名
以上
37.5名
以上
雇用義務のある障害者数
~100人
未満
1~
2名
1~
2名
1~
2名
100~300人
未満
2~
6名
2~
7名
2~
8名
300~500人
未満
6~
11名
7~
12名
8~
13名
500~
1,000人未満
11~
22名
12~
24名
13~
26名
1,000~
3,000人未満
23~
68名
25~
74名
27~
80名
3,000~
5,000人未満
69~
114名
75~
124名
81~
134名
5,000~
10,000人未満
115~
229名
125~
249名
135~
269名
10,000人以上 230名
以上
250名
以上
270名
以上

企業ごとの「雇用義務のある障害者数」は、業種・常用雇用労働者数によって異なります。

法定雇用率引き上げ後に、どのような影響が出るか?簡単に試算いただける「実雇用率計算フォーマット」を下記より無料でダウンロードいただけますので是非ご活用ください。
※次章で触れる「除外率の10%削減」に関しても、以下のダウンロード資料にてシミュレーションいただけます。

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その他、ポイントとなる関連項目の検討内容

法定雇用率の引き上げ以外にも、今回の障害者雇用分科会では、2023年度以降の障害者雇用に関連する検討項目が議論されました。
その中でも、雇入れる企業側として影響が大きく、ポイントとなる内容をいくつかピックアップしたいと思います。

除外率の一律10ポイント引き下げ(2025年4月より)

障害者の雇用が一般的に難しいとされる業種(船舶運航や道路旅客運送業、建設業などの一部の業種)を対象に、雇用義務の軽減を認める「除外率制度」について、今回の分科会にて2025年4月から一律10ポイント引き下げとなることが決まりました。
法定雇用率の引き上げと同様に障害者雇用の推進を目的とした施策となりますが、これまで除外率が適用されていた業種の企業は、早期の対策が必要となります。

事業主向けの支援を拡充、相談援助の助成金も創設予定

法定雇用率の引き上げをはじめとする障害者雇用推進のための施策と並行して、雇入れ側となる事業主・企業に向けた支援の拡充についても検討が進められています。
2024年4月から、雇入れに必要な一連の雇用管理に対する相談援助の助成金が創設される予定となっており、中小企業や除外率の引き下げが予定されている除外率設定業種に対しては、特に集中的な支援を行うための制度を今後検討していくと発表されました。

多様なはたらき方の創出、短時間勤務も算定対象に

障害特性により長時間の勤務が難しいなど、障害者の多様な就労ニーズを踏まえたはたらき方の推進を目的に、

・週20時間以上30時間未満の短時間ではたらく精神障害者の雇用促進を目的とした期間限定の特例措置「精神障害者の算定特例」を2023年4月以降も継続

週所定労働時間10時間以上20時間未満の重度の身体障害者・知的障害者及び精神障害者を、2024年4月より実雇用率に算定対象に加えることを決定

しております。

まとめ

今回の厚生労働省の発表により、障害者の法定雇用率の段階的な引き上げは、ほぼ確実なものとなりました。
先立って内閣府より発表されている、2023年度から始動する「第5次障害者基本計画」でも、数値目標を「雇用量」から「法定雇用率達成企業の割合」に置き直しており、政府として今後は「量」から「質」を問う、障害者雇用の推進を目指そうとしていることが読み取れます。そのために、前述の事業主・企業側に向けた支援の拡大も予定されています。

障害者雇用市場の動向としては、身体障害者の多くは病気や事故などによる後天性であり、新規の労働者として障害者雇用市場に表れる数は今後も限られるでしょう。また、すでに雇用されている身体障害者の高齢化も進んでいき、求職者数は減少傾向にあります。一方、精神障害や若年層の発達障害者は今後も増加すると見られています。

法定雇用率達成のための採用拡大、戦力としての障害者活躍のためには、労働市場の中心となる精神・発達障害者の採用、雇入れを一層進めていくことが求められるでしょう。
時短勤務の算定拡大、拡張される支援・助成金を活用した活動が今後はさらに推奨され、企業側には、中長期的な戦略をもった障害者雇用推進が求められていくでしょう。