「障害者雇用納付金制度」は、障害者を雇用するすべての企業に関わる重要なルールの一つで、事業主はその内容を正しく把握しておく必要があります。
しかし、「納付金は罰金のようなもの」「納付金さえ納めれば、障害者の雇用義務を果たしたことになる」など、制度を誤解している人も少なくありません。そこで、障害者雇用納付金制度の概要とその趣旨、具体的内容、注意点について紹介します。

目次

障害者雇用納付金制度とは

障害者雇用納付金制度とは、障害者の雇用促進と安定を図るために設けられた制度です。 この制度は、「障害者の雇用の促進等に関する法律(障害者雇用促進法)」が定める、「障害者雇用率制度(法定雇用率)」が前提となっています。2023年4月現在、民間企業の法定雇用率は「2.3%」です。これは、企業は常時雇用している労働者数のうち、2.3%以上の障害者の雇用が義務付けられていることを指します。

この法定雇用率が未達成の企業は、障害者雇用納付金制度に則って納付金を納めなければなりません。具体的には、法定人数よりも不足している人数分×50,000円を、月額として納入する必要があります。
徴収した納付金を主たる財源とし、法定雇用率を達成している企業に調整金や報奨金、助成金が支給されています。なお、障害者雇用納付金制度の対象となるのは常時雇用労働者が100人を超える事業者です。

ちなみに、障害者の法定雇用率は段階的に引き上げられていくことが発表されており、今後は2.3%から段階的に2.7%へ引き上げられる予定となっています。

障害者雇用納付金制度の趣旨は「雇用の促進と安定」のため

障害者雇用納付金制度は、「障害者の雇用は、企業が連帯して果たすべき社会的責任である」という理念に基づいています。

企業が障害者を雇用する際には、設備の整備や改良、相談員の配置、合理的配慮の提供や雇用管理などが必要です。それらに際しては、一定の経済的負担も発生します。
さらに、今のところは法定雇用率以上の障害者を雇用する義務を果たしている企業と、果たしていない企業があります。このため両者の間には、経済的負担のアンバランスが生じているのが現状です。

このアンバランスの調整と、障害者雇用の促進・安定のため、事業主が共同で拠出する形で障害者雇用納付金制度が設けられています。

障害者雇用納付金制度の内容と計算方法

障害者雇用納付金制度は、以下の4つから成ります。

  • 法定雇用率未達成の事業主から障害者雇用納付金を徴収
  • 法定雇用率以上の障害者を雇用する事業主に対して調整金、報奨金を支給
  • 在宅就業障害者・在宅就業支援団体に業務を依頼した事業主に対して特例調整金、特例報奨金を支給
  • 各種助成金を支給

それぞれの内容について見ていきましょう。

法定雇用率未達成の事業主から障害者雇用納付金を徴収

常用労働者の総数が100人を超える事業主において法定雇用率を満たさない事業主は、不足1人につき50,000円の障害者雇用納付金が徴収されます。

常用労働者100人超の企業 月額50,000円×不足人数分

法定雇用率以上の障害者を雇用する事業主に対して調整金、報奨金を支給

法定雇用率を達成している事業主は、一定の調整金、もしくは報奨金が支給されます。支給額は以下の通り、常用労働者の人数によって異なります。

常用労働者100人超の企業 月額27,000円×超過人数分の調整金
常用労働者100人以下で、障害者を常用労働者の4%、または6人のうち多い数を超えて雇用している企業 月額21,000円×超過人数分の報奨金

在宅就業障害者・在宅就業支援団体に業務を依頼した事業主に対して特例調整金、特例報奨金を支給

在宅就業障害者や、または在宅就業支援団体を介して仕事を発注し、支払いをした事業主に対し、特例調整金、または特例報奨金が支給されます。
在宅就業支援者の支援のためのもので、自社の雇用でない発注に対する制度。金額などは厚生労働省や行政機関に確認してください。

各種助成金を支給

事業主が障害者雇用にあたって、設備の整備や雇用管理のために必要な介助をつける措置などを行った場合、内容に応じて助成金が支給されます。助成金には、例えば次のようなものがあります。

障害者作業施設設置等助成金・障害者福祉施設設置等助成金

エレベーターの設置など、障害者の雇い入れや継続雇用に必要な施設、福利厚生施設を設置した場合に支給。

障害者介助等助成金

職場介助者を配置する、手話通訳を雇用する、障害者相談窓口担当者を置くなど、適切な雇用管理のための配慮を行った場合に支給。

重度障害者等通勤対策助成金

通勤用バスの購入や会社に通いやすい住宅の賃借、バスの運転手の雇用など、重度障害者の通勤対策を行った場合に支給。

重度障害者多数雇用事業所施設設置等助成金

重度障害者を多数雇用する事業主が、必要な設備の整備や施設の設置を行った場合に支給。

障害者雇用納付金の申告申請における注意点

障害者雇用納付金制度の対象となる企業は、納付金の申告申請を行う必要があります。スムーズに申告を完了できるよう、申請時の注意点を事前に確認しておくことをおすすめします。
障害者雇用納付金を申告申請する際の主な注意点は、以下の3つとなります。

算定特例の適用時期

令和4年度からは、「算定特例」を申請・認定された際、前年4月1日に遡り「算定特例」を適用する取り扱いが廃止されました。令和4年度以降は申請した年度4月1日からの適用となるため、算定特例を申請する場合には注意が必要です。

障害者雇用納付金の申告期限

申告内容によって、申告の期限が異なる点にも気をつけなければなりません。調整金や報奨金などの支給金については、申告期限を過ぎてしまうと申請しても支給されなくなるため注意しましょう。

障害者雇用納付金の申告申請書の様式

申告申請書の様式や内容は、定期的に改正されています。古い様式の申請書で提出してしまうことがないよう、年次の申告申請に際しては必ず現在のバージョンを確認しましょう。誤って旧様式で提出してしまった場合は、再提出を求められる場合もあります。

障害者雇用納付金を納付しない場合はどうなる?

納付金の申告の有無や未納・滞納の状況などによっては、事業主が処分を受ける場合があります。障害者雇用納付金制度において受ける可能性のある2つの処分の内容についても知っておきましょう。

障害者雇用納付金の申告を行わなかった場合

障害者雇用納付金制度の対象であっても、申告をしなかった事業者に対しては納付金の納入時に追徴金が加算されます。納付すべき額(その額に千円未満の端数があるときは端数切り捨て)に百分の十を乗じて得た額、つまり約1割の追徴金が加算されることとなります。

徴収金(納付金)の納付を行わない場合

納付金が発生しているにも関わらず期限までに納付を行わなかった場合は、その事業者に対して督促状が発行されます。督促を受けた事業者は、指定された期限までに納付金やその他の徴収金(追徴金など)を完納しなければ、財産差し押さえなどの滞納処分を受ける可能性もあります。

上記のように、申告申請や納付金の納付を正しく行わないと、法令に則ってペナルティが課されてしまう可能性があります。特に注意したいのは、障害者雇用納付金制度の対象となる従業員数です。以前は従業員数200人を超える事業者が対象となっていましたが、2023年4月現在は従業員数100人を超える事業者に対象が拡大されています。自社が対象にあたるかどうかをあらためて確認しておき、申告申請に備えておきましょう。

障害者雇用納付金の注意点

ここまで制度について紹介してきましたが、障害者雇用納付金は「法定雇用率を達成していない企業への罰金ではないか」「納付金を払えば雇用義務を果たしたことになる」と誤解されるケースも少なくありません。障害者雇用納付金とは、障害者雇用の義務を果たしている企業と果たしていない企業の経済的な負担を調整するために支払うものであり、法定雇用率を達成できなかった罰金ではないのです。
たとえ障害者雇用納付金を支払っても、障害者雇用義務を果たしたことにはならず、未達成状態が続くとハローワークの雇用率達成指導を受けたり、企業名を公表されたりすることがあります。

上記のように企業名が公表されてしまうと、企業自体やブランドなどのイメージ低下を招くおそれもあるでしょう。また、イメージを損なってしまったことで、新たな人材採用などに深刻な影響を及ぼす可能性もあります。
障害者雇用納付金は、いわゆる罰金にはあたりません。しかし、そうは言っても法定雇用率が未達成の状態のままでかまわないとは考えないほうが良いでしょう。障害者雇用納付金制度の対象となること=障害者の法定雇用率が未達成であるということは「法律で定められた義務を果たしていない」状態であるということを、重く認識する必要があります。
障害者の法定雇用率を未達成のままにしておくことで、さまざまな不利益やデメリットが発生します。納付金の対象となっている事業者は、法定雇用率を達成するよう障害者雇用に向けて前向きに取り組むことが必要です。

まとめ:社会的責任を果たし、障害者雇用の促進と安定に貢献

障害者雇用納付金制度は、「障害者雇用は社会全体で考えるべき問題であり、企業が共同で果たしていくべき責任である」との考え方が基本になっています。事業者は、障害者を雇用する側として制度の意義を正しく理解し、雇用を推進していくことが大切です。

障害とひと口に言っても、その特性や症状はさまざまです。それと同じく、障害者一人ひとりの長所や短所も人それぞれであると考えましょう。もちろん、個々の障害の特性を生かし、高い能力を発揮する人もいます。
障害者を雇用することは、これからの多様性重視の社会に対応していくことにとどまらず、人材発掘の幅を広げることにもつながると考えて良いでしょう。

もし、適した人材を見つけるのが難しい場合は、障害者雇用に特化した人材紹介サービスの利用を検討することもおすすめです。

パーソルダイバースでは、人材紹介だけではなく採用代行や定着支援など、障害者雇用にまつわるあらゆる課題をワンストップでご支援することが可能です。
障害者雇用に際してお悩みがある企業様は、ぜひお気軽にお問い合わせください。