中小企業による障害者雇用は、大手企業と比べて、雇用にかけるコストや人的リソース、ノウハウが限られていることから、雇用への取り組みの課題も多く聞かれます。そこで今回は、中小企業で雇用を進める上で知っておくべきポイントや、実際に雇用を進めている企業の事例を紹介します。

目次

中小企業での障害者雇用状況は

厚生労働省が発表している、2019年(平成30年)の障害者雇用状況の集計結果によると、民間企業の障害者雇用数は53万4769.5人、実雇用率は2.05%という結果で、民間企業の障害者雇用率(法定雇用率)2.2%を下回る結果となっています。
下の図は、企業規模別の障害者雇用数と実雇用率、法定雇用率達成企業数をまとめたものです。従業員45人以上500人未満の中小企業は実雇用率が2%を下回っていることが分かります。

企業数 身体障害者の数 知的障害者の数 精神障害者の数 実雇用率 法定雇用率達成企業の数 法定雇用率達成企業の割合
規模計 100,586 346,208.0 121,166.5 67,395.0 2.05% 46,218 45.9%
45.5~100人未満 49,370 32,934.5 14,055.0 7,937.5 1.68% 21,795 44.1%
100~300人未満 36,173 68,438.0 24,201.5 13,882.0 1.91% 18,127 50.1%
300~500人未満 6,965 31,297.0 9,941.5 5,638.5 1.90% 2,795 40.1%
500~1,000人未満 4,720 41,430.0 12,473.5 8,404.5 2.05% 1,895 40.1%
1,000人以上 3,358 172,008.5 60,495.0 31,532.5 2.25% 1,606 47.8%

出典:厚生労働省「平成30年 障害者雇用状況の集計結果」

障害者の雇用が難しい、中小企業ならではの課題とは

少し古いデータになりますが、2012年に高齢・障害・求職者雇用支援機構が調査・発表した「中小企業における初めての障害者雇用に係る課題と対応に関する調査」によると、以前に障害者を雇用しなかった理由として下記の内容がまとめられていました。

以前に障害者を雇用しなかった理由(N=110社)

出典:独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構「平成24年度 障害者職域拡大等調査報告書No.2 中小企業における初めての障害者雇用に係る課題と対応に関する調査」

また、初めて雇用するにあたって困ったこととして、次のような声が寄せられています。

はじめて障害者を雇用するにあたって困ったこと

出典:独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構「平成24年度 障害者職域拡大等調査報告書No.2 中小企業における初めての障害者雇用に係る課題と対応に関する調査」

中小企業は人的リソースや経営資源に限りがあるため、障害の状況に応じた作業内容等の改善や人材の確保が難しいということが課題となっています。また、障害者を雇用するためのノウハウが不足しており、採用や選考、従事作業の設定などをどのように決めればよいのかがわからないという企業が多いということもわかりました。
従業員数が少ない中で2.2%の障害者雇用率を達成することは、中小企業にとっては大きなハードルと言えるでしょう。

雇用を進める6つのポイント

では、中小企業で障害者雇用を進めるにはどのようにしたらよいのでしょうか?
必要な対策は企業によって異なりますが、ここでは、中小企業が障害者雇用に取り組むにあたって知っておくべきポイントを6つ、紹介します。

  1. 雇用に取り組む意義と方針を立て、社内理解を得る
  2. 業務を考える
  3. 職場実習の受け入れや、採用前実習を利用する
  4. 支援機関や雇用支援業者に、雇用計画や人材確保、雇用形態を相談する
  5. 助成金などの雇用支援制度を活用する
  6. 雇用後は地域の支援機関と一緒に、職場定着に取り組む

1. 雇用に取り組む意義と方針を立て、社内理解を得る

何のために障害者雇用に取り組む必要があるのか、その方針と意義を明確にし、社内での理解を得るようにしましょう。
また、障害者雇用に取り組むのは法的義務を果たすため、という理由もありますが、雇用することでメリット生まれることを知ってもらうことが大切です。
従業員の中には「障害があるからできないのではないか」「手がかかるのではないか」「コミュニケーションが取れないのでは」という不安を抱えることもあるでしょう。障害者は「得意なこと」と「不得意なこと」が明確であり、「得意なこと」を活かして雇用すれば、能力を発揮して業務貢献することは可能なのです。
なぜ雇用するのか、どのようなメリットが生まれるのか。この2つを、社内研修や説明会などを通じて説明し、職場への理解を得ることできれば、以下のような効果が生まれるでしょう。

  • 社内の雰囲気や人間関係、障害者が働くことに対する見方が変わる
  • 雇用した後の、障害のある社員への接し方が変わる
  • 自分自身や部署全体の業務や制度を見直す機運が生まれる
  • 人事部や配属部署担当だけでなく、会社全体で、障害のある社員をサポートする事ができる

2. 業務を考える

障害者雇用を進める際には、採用する前に、どのような業務を任せるのかを考えることが最も重要です。
業務が無い状態で採用だけ行っても、何を任せるべきか分からない、業務とのマッチングがうまくいかないという結果になり、退職に至ってしまうケースが多く見られます。これは大手企業でも同じです。
障害者雇用が進まない理由として「うちには任せる業務がない」「少ない人数で業務を回しており、障害者に切り出せる業務などない」「長年在籍する社員が、その経験と知識で業務を回している」という声をよく耳にします。しかし、少ない人数で回している業務だからこそ、一人ひとりが対応している業務範囲や業務量が多くなっている状態もあるのではないでしょうか。

以下に挙げるのは企業でよく見られる業務の一例です。

  • PCデータ入力
  • 資料の整理や電子データ化作業
  • リサーチ、情報収集・整理
  • 電話応対、問い合わせ対応
  • 社内関連部門への連絡指示
  • 配送センターでの箱詰め、箱折り、ピッキング作業、出荷前検査
  • 製造工場での製品組立、部品検収作業、ラインリーダー
  • 小売店舗での食品加工・包装、商品陳列、接客
  • 清掃業務

これらの業務は、どのような企業や部署にもあると思います。比較的切り出しやすい上、どのような特性を持った障害者でも取り組みやすい業務と言えるでしょう。
最初はこうした業務から従事してもらい、本人の特性や意欲、成果にあわせて少しずつ業務の幅や責務を増やしていくのが良いでしょう。

3. 職場実習の受け入れや、採用前実習を利用する

障害者を雇用したことがない、または過去に雇用したことがない障害特性のある方を初めて雇用する場合は、一定期間、職場実習を実施し、試験的に実習生を受け入れてみても良いでしょう。

実習によって障害特性への理解を深めることができるほか、人材要件を策定するにあたり必要な職務能力を見極められるなどの効果があります。また採用選考においても雇用前(採用前)実習を行うことで、候補者が職場や業務にマッチしているか、定着できそうかを確認でき、雇用後のミスマッチを低減することができます。

高齢・障害・求職者雇用支援機構では「障害者職場実習支援事業」を行っています。これは、ハローワーク等と協力し、職場実習を計画して実習生を受け入れた場合に、謝金等を支給することによって、障害者の雇用経験の乏しい企業に対する支援を行うものです。こうした支援も積極的に取り入れてみるとよいでしょう。

4. 支援機関や雇用支援業者に、雇用計画や人材確保、雇用形態を相談する

雇用計画や人材確保など、障害者雇用に関することは、ハローワークや地域の支援機関に相談しましょう。同規模の企業が、障害者雇用をどのように進めているのかの事例も提供してくれるので、参考にしてみましょう。
また、人材紹介会社や雇用支援を行っている業者を活用するのも良い方法です。自社の求める人材要件に適した人材を紹介してもらえるほか、業務創出・切り出しや採用選考活動の支援、従業員向け研修の実施や、雇用後の職場定着のための相談や支援を受けることもできます。雇用セミナーなどに参加し、雇用の進め方の相談をしてみるのも良いでしょう。

※オフィスでの雇用受け入れが難しい場合は、在宅やテレワークによる雇用も有効な場合があります。これらの雇用形態は、政府が主導する「働き方改革」に伴い、一般雇用の中で広がっていますが、今後は障害者雇用においても有効な雇用形態として導入が進むことが期待されていますので、検討してみても良いかもしれません。

5. 助成金や雇用支援制度を活用する

障害者雇用の経験がない中小企業においては、支援制度について詳しく知らない企業もあるでしょう。「障害者雇用促進法」に基づき、企業は障害者雇用を推進するにあたり、国から様々な助成金を受け取ることができます。その中で、代表的なものをいくつか紹介します。

  • 中小企業障害者多数雇用施設設置等助成金
  • 東京都 中小企業障害者雇用支援助成金 (東京都)
  • 神奈川県 精神障害者職場指導員設置補助金 (神奈川県)

6. 雇用後は地域の支援機関と一緒に、職場定着に取り組む

雇用後に最も重要なことは、「安定的に就業を継続し、職場に定着できるか」ということです。定着のためには、障害者本人が就業を通じて活躍しているという意欲を持てること、企業が障害者の安定就業や能力発揮のために適切な配慮や評価を行うことが大切です。しかし、雇用ノウハウが十分にない企業や、就業面以外(医療や健康面、家庭やプライベートに関する範囲)に関するサポートは難しいことがあります。
そのために、支援機関と連携しておくことが大切です。入社時に地域の支援機関に必ず登録してもらうこと、就業状況などを共有し、細かな定期面談を通じて悩みや相談に乗ってもらうことなど、定着に向けた支援を依頼するようにしましょう。

※支援機関との連携についての詳細は以下記事で解説しています。

就労定着支援サービス(2018年10月より施行)

2018年10月より、障害者総合支援法に基づく障害福祉サービスの一つ「就労定着支援」が始まっています。
これは、労働環境の変化によって生じる生活面や就労面の課題に対応できるよう、最長で3年間にわたって支援を行うというものです。対象は生活介護・自立訓練・就労移行支援または就労継続支援事業所の利用を経て一般就労へ移行後、6ケ月が経過した障害者となります。

支援は2018年より新設された就労定着支援事業所か、これまでの就労移行支援事業所就労継続支援A型事業所、就労継続支援B型事業所などのうち、就労定着支援を新たな事業として実施している事業所から受けられます。これらの事業所に通所していた方を雇用し、定着のための取り組みを検討している場合は、相談してみると良いでしょう。

中小企業での障害者雇用事例

厚生労働省や各地域自治体では、障害者雇用の取り組みで顕著な実績を上げている企業を「優良企業」として表彰したり、取り組みを雇用モデル事例として取り上げたりしています。その中から、中小企業による障害者雇用事例を3例、業種別に紹介します。

事例1:製造業での雇用事例

  • 従業員:約150名
  • 事業内容:化学製品の製造・加工
  • 障害者雇用:精神障害 計3名

現場から人員補充の要請を受けて新規採用を検討していた際に、地域の支援機関に相談したことが障害者雇用のきっかけでした。1日限定の職場体験を行ったところ大変優秀な方がおり、現場の評価も高かったので、3か月のトライアル期間の後に採用となりました。

現在は3名の精神障害者がおり、製造物の検査業務や部品の組み立て工程を担当しています。集中力が高く仕事の質も高いため、現場からの評判も良いようです。今は少しずつ業務の幅を広げています。

この企業では障害者雇用の経験や知識が全くなかったため、支援機関に、障害特性や職場での接し方、問題が発生した際の対応の仕方など、安定就業のための様々なアドバイスを貰っています。また職場指導員をつけており、2ヶ月に1回の面談で、業務や体調面、そのほか困っていることはないかを確認しています。職場指導員や支援機関と連携し、障害のある社員の心を安定定着や働く意欲を喚起することで、当事者が向上心を持って仕事に取り組むことができているようです。

事例2: IT企業での雇用事例

  • 従業員:約500名
  • 事業内容:介護や福祉関連のソフトウェア開発、販売、保守
  • 障害者雇用:身体障害(肢体不自由)、精神・発達障害、知的障害 計8名

この企業では、これまで身体障害者を数名雇用する程度で法定雇用率を下回る状況が続いていましたが、福祉領域の事業を展開する企業として障害者雇用は経営課題との認識をされていました。そこで人事部の体制変更を機に、障害者雇用を本格的に促進していくこととなりました。
その後ハローワークの紹介で発達障害のある方が入社し、清掃業務を担当することになりました。就業状況も順調で、社内からの障害者雇用に対する理解も深まっていったことから、その他の障害のある方の雇用も進んでいきました。

最初に発達障害のある方を採用した際、従事させる業務や指導の仕方などに対する不安が大きかったため、ハローワークや各種支援機関からの支援や、トライアル雇用、ジョブコーチ支援などの各種制度を利用し、スムーズに受け入れを進めていくよう心掛けました。
入社後3か月は、定期面談を通じて業務作業の習得と円滑な業務遂行、職場でのコミュニケーションの促進、困っていることの確認を行いました。その後もフォローアップ支援などを利用し、支援機関からのサポートを受けて職場定着を図ってきました。

またこの方は、こだわりが強い、強い光があると業務に集中できない、時折言葉遣いが不適切になるなどの特性がありました。そのため、企業・支援機関・現場管理者が連携し、他の社員とのコミュニケーション方法や、業務に集中できるための必要な配慮などを確認していきました。こうした細かな連携と特性への配慮が、職場定着や、更なる雇用の促進に繋がったのではないかと思われます。

事例3:流通・小売業での雇用事例

  • 従業員:約300名
  • 事業内容:小売業(スーパーマーケット)
  • 障害者雇用:精神障害、知的障害 計16名

この企業は、障害者雇用を促進させるため、経営企画管理部門に専任の担当者をアサインし、地域ハローワーク主催の雇用説明会や特別支援学校の企業向け説明会に参加するなど、情報収集と体制構築を積極的に図っていきました。
その結果、雇用体制構築から1年後に障害者1名を採用。その後も支援機関との連携によって複数名の雇用を進めることができました。

雇用を進めるにあたり、最初に、店舗や本部業務の中で障害者がどのような業務ができるのかという「業務の切り出し」を徹底して行いました。店舗バックヤードや、包丁などを使わなくてもできる仕事などの業務領域を創出し、配属することから始めました。
その後、障害者本人が業務の達成感を感じられるよう、特定の業務に固執せず何でもやってもらえることとしました。来店客と会話できる障害者は商品陳列業務に配置するなど、障害特性や配慮を鑑みた配置を行うことで、働く意欲の向上や充足感、安定定着・活躍化を図るように取り組みました。現在ではすべての店舗と本部に障害のある社員を配属できるようになったそうです。
また、採用後のミスマッチをなくすよう、採用時には職場実習を行うことにしています。

配属現場では、一人ひとりの障害特性を正しく理解し、「作業手順をメモに書く」「素直だがすぐに仕事の仕方を忘れてしまう人には繰り返し声をかける」「辛抱強くコミュニケーションをとる」といった取り組みを続けた結果、徐々に仕事を覚え、活躍できるようになっていきました。
さらに、障害特性に配慮して接することで職場全体の雰囲気が和やかになったほか、「自分たちは障害者のお手本にならなければいけない」という意識が拡がったこと、従業員間のコミュニケーションや連携が強化された、などの効果があったようです。

まとめ:他社事例や支援機関からのサポートを受けながら、自社で実施可能な雇用施策を立てる

中小企業にとって障害者雇用を進めることは簡単なことではありませんが、上に紹介した事例や雇用のポイントをもとに、自社ならどう取り組めるかを考えてみましょう。 人的リソースやノウハウが限られる中小企業は、外部から学ぶことや、雇用にかかる負担をいかに削減するか、業務の切り出しをどう行うかがポイントになります。ハローワークなどの支援機関や民間の雇用支援業者が持つ知見やサービスなどを上手に活用しましょう。
雇用後は、障害者の雇用管理の負担が配属部署に偏らないようにすることが特に大切です。そのため、人事・総務部門が障害者の管理や健康支援などを積極的にサポートすることが必要でしょう。