民間企業による発達障害者の雇用は、法制度の改正や社会的認知の広がりにより急速に増加してきています。その一方、採用活動や雇用後の安定就業面で課題を抱える企業も増えています。また「発達障害者はコミュニケーションがとりづらい」「特定の分野で高い能力を持っている」など、偏ったイメージを持つ人も多く、職場での正しい理解や配慮ができていないという声も聞かれます。 雇用を進めるためには、発達障害への理解を深め、採用や安定就業・定着化ための取り組みを取り入れることが求められています。今回は、発達障害の特性や民間企業での雇用動向、能力を発揮しやすい業務例を紹介するほか、採用時や就業におけるポイントを、実例をもとに紹介します。

目次

発達障害とは

発達障害とは、脳機能の発達が関係する先天的な障害です。生まれながらに脳の働きに偏りがあり、それが様々な特性となって現れます。1歳頃から何らかのサインが現れ始めるケースが多いものの、成長と共に症状が目立たなくなる方、思春期頃に不安症状・うつ症状を合併する方、就職してから初めて障害を疑い病院を訪れる方など、特性の現れ方は様々です。

発達障害の障害区分は「精神障害」に分類されており、「精神障害者保健福祉手帳」が発行されます。発達障害は精神障害と同じ分類ではありますが、障害が現れる時期に違いがあります。
発達障害は生まれながらの先天的な脳機能の偏りによるもので生涯続くのに対し、精神障害は10代以降に、人生での心理的・外的な要因によって症状が引き起こされる場合が多いとされています。

発達障害とされる主な障害を紹介します。

ASD(自閉症スペクトラム・アスペルガー症候群)

Autism Spectrum Disorder (Disability)、略称ASDは自閉症スペクトラム障害と訳されます。自閉症、アスペルガー症候群(AS)、特定不能の広汎性発達障害(PDD-NOS)などが統合された診断名です。
特徴として、社会でのコミュニケーションや人との関わりに困難さを感じることが多いとされています。また興味や関心、行動が限定され、独特のこだわりや反復行動がみられます。

ADHD(注意欠陥多動性障害)

ADHD(Attention Deficit Hyperactivity Disorder)は、注意欠陥多動性障害と訳されます。不注意、多動性、衝動性の3つが特徴で、集中が必要なことに集中できない、注意が長続きしない、落ち着いていられない、必要のない動作や行動が多くなる、衝動的に行動する、他人を遮って自分が行動する、といった症状がみられます。

LD(学習障害)

Learning Disability(LD)は、一般的に学習障害と呼ばれます。全般的な知的発達に遅れがないものの、「聞く」「話す」「読む」「書く」「計算・推論する」能力のどれか、もしくは複数の能力において習得や実践に困難を感じる障害のことです。

異なる障害が重なり合っていることも

上の図のとおり、ADHDとASDを併せ持つなど、異なる障害が重なり合うケースがあります。そのため「あの人はASDだから〇〇」「ADHDだから〇〇」という見方だけでは正しく理解できないことが多いのです。
また、発達障害の特性があることで外的な要因(ストレスや不安、失敗、ネガティブな影響を受けることなど)を受け、「二次障害」として精神障害を発症するケースも多く見られます。その場合、治療方法はもとより、特性や必要な配慮も異なってきます。

発達障害者のはたらき方

発達障害のある方のはたらき方としては、「一般採用枠」「障害者採用枠」の2つの雇用枠があります。

一般採用枠での就業

一般採用枠は、健常者も障害者も対象の雇用枠です。障害についてオープンにする場合とクローズにする場合がありますが、どちらも障害者当人にとっては障害への配慮を受けにくいとされています。しかし、一般採用枠だと求人数が多く給与も高いなどのメリットもあり、発達障害がある方のうちASDの診断がある方の約6割、ADHDの診断がある方の約8割が一般採用枠での雇用で就業しているという調査結果もあります。

障害者採用枠での就業

障害者採用枠は、障害がある方のための雇用枠です。障害者手帳を持っていることが条件とされて、身体障害者、知的障害者、発達障害を含む精神障害者が対象となります。企業側の障害への理解があるため、合理的配慮やサポートを受けやすいことが大きなメリットであるとされています。

発達障害者の雇用状況

この数年で、発達障害の雇用を取り巻く動きが加速しています。
2016年に施行された障害者差別解消法、同じ年の8月に施行された改正発達障害者支援法により、発達障害者への差別禁止や、関係機関の連携による支援が進められてきました。そして障害者雇用促進法の改正によって、2018年4月より発達障害者を含む精神障害者の雇用が義務化。障害者雇用率(法定雇用率)の算定基準に加えられています。

厚生労働省が5年に一度調査し、発表している「平成30年度障害者雇用実態調査」によると、従業員規模5人以上の事業所に雇用されている障害者数82万1,000人のうち、発達障害者は3万9,000人となっており、この数字は年々増加傾向にあります。また、就業中の方の精神障害者保健福祉手帳の等級は3級が48.7%で最も多く、症状別では「自閉症、アスペルガー症候群その他の広汎性発達障害」が76.0%と最も多いことが分かりました。

精神障害の雇用義務化で発達障害の雇用も増加傾向に

上述した通り、2018年4月から発達障害を含む精神障害者も障害者雇用率(法定雇用率)の算定基準に加えられたこともあり、発達障害・精神障害の雇用は急増しています。

厚生労働省が公表している「令和4年 障害者雇用状況の集計結果」によると、障害別の雇用数は下記の通りとなっています。

障害分類 雇用数(前年度比)
身体障害者 357,767.5人(0.4%減)
知的障害者 146,426.0人(4.1%増)
精神障害者 109,764.5人(11.9%増)

前年度比を見ると、身体障害者の雇用数が減少している一方で知的障害者と精神障害者の雇用数は増加しており、特に精神障害者の雇用数が大きく伸びていることがよく分かります。上記の調査では発達障害者のみの集計結果は発表されていませんが、雇用数は増加していると考えて良いでしょう。

また、下記のグラフは「平成30年度障害者雇用実態調査」で発表されている、身体障害者と発達障害者の年齢階級別の雇用人数割合です。

障害者の雇用 年齢階級別(%)

身体障害者の雇用では55~59歳層が最も高い結果になっています。更には、50歳以上が全体の半数である51.8%を占めています。これは、障害者雇用の中でも身体障害者に対する雇用が最も早く進んだ為、年齢階級が高くなっていると考えられます。

一方、発達障害者の年齢階級は30~34歳層が23.8%、20~24歳層が21.6%と、若年層の割合が高くなっています。理由として、社会的認知の広がりや支援体制の確立などにより、医師の診察や手帳を取得する若年層が増えていることが考えられます。
身体障害者の雇用層が高齢化する中、今後は若手の発達障害者の雇用がさらに増えていくと予想されます。

発達障害の特性がある学生も増加

日本学生支援機構の調査によると、障害のある学生(診断書有)の中でも発達障害がある学生の数は年々増加しており、卒業後の就職件数も2019年度は406人、2020年度は518人、2021年度は554人と増加傾向にあります。

障害種別の支援障害学生数

発達障害がある大学生の就職件数が増加している背景として、以下の2つの要因があると考えられます。

  • 発達障害の診断を受ける人の数が増えている
  • 発達障害がある学生が就職しやすくなっている

発達障害だと診断される人が増えている理由としては、発達障害の認識が一般に広まったことなどから精神科などの専門医を受診する人が増えていることが関係していると考えられます。発達障害の診断数について官公庁などの公的なデータはないものの、それぞれ日本国内の大学が発表したデータがあるのでご紹介します。

ASD(自閉症スペクトラム・アスペルガー症候群)については、2020年に公表された弘前大学大学院医学研究科の研究グループの調査によると、5歳児の調整有病率は 3.22%で「これまでわが国で考えられていた有病率よりも高い数値である」とされています。

ADHD(注意欠陥多動性障害)については、信州大学医学部の研究グループが行った、全国の診療データベースを用いた調査では年間発生率が2010年度から2019年度の間で、7-19歳は2.5倍、20歳以上は21.1倍に増加したとの結果が出ています。

発達障害がある学生が就職しやすくなっている件については、企業の理解が深まってきていることに加えて、大学側の支援体制が整ってきつつあることが理由として挙げられます。
発達障害者支援法に基づき、大学などの教育機関においても発達障害者に対する支援が積極的に行われるようになっています。それにより、在学中に医師の診断を受けたり障害者手帳を取得したりする学生が増えています。
ただし、就職活動の過程で初めて発達障害の特性に気づく学生も多いのも現状です。大学の新卒社員を採用する際に、発達障害の何らかの特性を持った学生を雇用する機会も今後徐々に増えることが想定されるでしょう。

パーソルダイバースでは、障害者手帳や診断の有無、学年を問わず、コミュニケーションに課題を感じている学生を対象に、コミュニケーション・サポート・プログラムを提供しています

特例措置により雇用が増える可能性も

通常、障害を持つ労働者のカウント方法は、短時間以外の常用雇用労働者を1人、短時間労働者は0.5人として計算していますが、2018年4月に施行された障害者雇用促進法の改正に伴う特例措置により、精神障害者の雇用に限り、下記の特例措置が取られるようになりました。

週20時間以上30時間未満の労働で
雇用開始から3年以内 0.5人としてカウントされていた、短時間労働の精神障害者も”1人”としてカウント
精神障害者保健福祉手帳を取得して3年以内

この特例措置は2022年度末までの期間限定とされていましたが、2023年4月以降も継続されることが決定しています。さらに2024年4月より、障害者雇用の算定対象となっていなかった「週所定労働時間10時間以上20時間未満の重度の身体障害者・知的障害者及び精神障害者」も実雇用率の算定対象に加えるとされています。
特例措置の延長や算定対象の追加により、「精神障害者を雇用するのは初めて」「いきなりフルタイムでは雇用しづらい」「必要な配慮や管理手法が整っておらず、入社しても定着してもらえないのでは」といった理由で雇用に前向きに取り組めなかった企業でも、「まずは短い働時間で雇用し、障害者雇用のカウントに加える」ということができるため、採用に力を入れる企業が増えそうです。

法定雇用率の引き上げに伴う制度改定の詳細については以下の記事もご参照ください。

発達障害者を採用するときの選考のポイントは

発達障害者を採用した経験がない企業では、どのような目線を持って採用すべきなのか悩むこともあるでしょう。
先に紹介した「平成30年度障害者雇用実態調査」によると、発達障害者の平均勤続年数は3年4カ月で、身体障害者の10年2カ月や知的障害者の7年5カ月と比べ短くなっています。このことから、発達障害者の雇用では、安定就業・定着化をどう図っていくかがポイントであると言えるでしょう。

面接や実習を通じて、次の3点を確認することが大切です。

  1. 自分の障害を受容しているかどうか
  2. 企業側が求める職務能力を持っているかどうか
  3. 就労安定要素があるかどうか

1つ目のポイントは、「自分の障害を受け入れているか」ということです。企業側は障害がある方を採用するにあたって障害について正しく把握し、適切なサポート体制を整える必要があります。自分の障害の特性を理解し、対処法や必要な配慮について周囲に説明できると安定就労にもつながるため、重要なポイントです。
2つ目は、「企業側が求める職務能力が備わっているか」ということです。一般雇用と変わらず、仕事をする上で業務をやり遂げる力は必要となります。
3つ目は、「障害に対する理解や自己管理など、長くはたらくための要素がどのくらい備わっているか」ということです。職場定着のためには、採用の際に安定就労要素が整っているかを見極めることも重要となります。

より詳しい採用のポイントに関しては以下の記事もご参照ください。

また、面接においては、質問の内容をシンプルにし、緊張感を与えず和やかな雰囲気を作るように心がけることが大切です。

面接でのより詳しい対応の仕方などについては以下の資料もご参照ください。

発達障害者に適している業務、仕事内容

発達障害のある方に適した業務や仕事内容にはどのようなものがあるのでしょうか。雇用したいけれども、自社の業務に適した業務があるのかどうかがわからず、採用に踏み込めないという企業もあるでしょう。

「平成30年度障害者雇用実態調査」によると、発達障害のある方の現在の職業は、販売が39.1%と最も多く、次いで事務的作業が29.1%、専門的、技術的職業が12.0%という結果になりました。その他の職業でも、配慮や雇用管理を工夫する、特性を短所ではなく「長所」「強み」として活かすことで、労働者が持つ力を十分に発揮できる場合があります。下記は発達障害のある方が特性を活かしやすい業務の一例です。

  • 興味ある分野の知識が豊富⇒専門知識を活かせる
    IT部門:システム開発、プログラミング業務など
    スペシャリスト:翻訳、法務など
  • いつも通りの秩序を重んじる⇒ルーチンワークに地道に取り組める
    軽作業系:倉庫での仕分け、設備点検など
  • 常識にとらわれず発想が自由⇒独特な発想・感性を活かせる
    デザイン部門:WEBデザイン、DTPデザイン業務など
  • 細かいことによく気づく⇒正確性・緻密性を活かせる
    ミドル・フロント部門:データ入力、スキャニング、ファイリングなど

発達障害のある方が持つ能力を社会でどのように活かせるかという点で、企業には人材採用・育成が求められています。パーソルダイバースでは、事業のDX推進に必要な先端ITスキルを習得した人材の採用サポートを行っています。採用する側と採用される側の相互理解の機会を増やし、企業が抱える障害者雇用とDX推進・IT人材不足の課題の両方の面にアプローチします。

発達障害者の雇用課題と職場で配慮すべき点

発達障害のある方を採用した場合、職場ではどのような配慮やマネジメントを行えばよいのでしょうか。 高齢・障害・求職者雇用支援機構が2015年に調査した「発達障害者の職業生活への満足度と職場の実態に関する調査研究」によると、発達障害者が望む職場への要望事項として次の内容が多く上げられています。

職場への要望(複数回答)n=595

出典:高齢・障害・求職者雇用支援機構 障害者職業総合センター
「2015年3月 発達障害者の職業生活への満足度と職場の実態に関する調査研究」

上記のグラフを見ると、「分かりやすい指示をしてほしい」「仕事が変更になる時は、前もって伝えてほしい」「仕事の優先順位を示してほしい」などのように、指示や対応の方法についての要望が多く寄せられています。指示の方法に関する具体的な要望としては、「「あれ」「これ」等のあいまいな言葉ではなく「どこのそれ」など詳しく指示してほしい」「マニュアルを一度ももらったことがないので変えてほしい」「聞く人によって違うことがあるからわかりにくい。指示の担当を決めてほしい」などがあげられています。

発達障害の特性は人によって異なりますが、持つ力を発揮して就業するために、下記のことに注意してマネジメントをするとよいでしょう。

  1. やるべき仕事、理由、手順、役割分担を明確にする
  2. 思わぬところで悩んでいることがあるので、コミュニケーションを大切にする
  3. ルールや決まりごとを大切にするので、変更がある時は前もって伝えておく
  4. 良い評価をすれば良い仕事に繋がる
  5. 注意や指示は遠慮なく、落ち着いて、具体的に

発達障害は、抽象的な表現や曖昧な言葉、暗黙のルールに対して理解が困難なことがあります。例えば、業務指示を出す際に、口頭での業務指示をうまく受け取れなかったり、与えられた仕事以外を推測し自発的に取り組んだりすることが苦手です。また、疑問や悩みをうまく整理できず言葉での説明も難しく感じているため、常にコミュニケーションをとることを意識しましょう。

一方で、決められたルールはしっかり守ってやり遂げる力があるため、業務内容をマニュアル化し、具体的に指示するようにしましょう。業務の範囲や、優先順位、一日の作業量などを予め決め、マニュアルを通して伝えるようにします。変更点があれば事前に伝えることでパニックにならず進めることができます。マニュアルは文字だけでなく図や画像などを多用するとよりわかりやすく作ることができるでしょう。

また、適切な人員配置によって能力をしっかりと発揮でき、生産性が向上します。さらに、業務に対して正当な評価をすることで、職場定着やさらなる戦力化につながるでしょう。

コミュニケーションの面では、雰囲気や相手の気持ちを読み取れなかったり、一つの話に集中してしまったりする特性があります。話が長くなったり脱線したりしていることを指摘し、本人に告げることも大切です。

音や光に敏感で、音がうるさい場面や、光があたりすぎる場所では集中できなくなる特性を持った方もいます。その場合は、パーテーションやイヤホンの使用を認めるなどの配慮も効果的でしょう。

まとめ:発達障害者雇用における職場定着のポイント

「平成30年度障害者雇用実態調査」によると、発達障害者を雇用する上で課題があるかについて、69.5%が「ある」としています。課題として回答されたものの中では、「会社内に適当な仕事があるか(どうか)」が 75.3%と最も多く、次いで「障害者を雇用するイメージやノウハウがない」が52.9%、「採用時に適性、能力を十分把握できるか(どうか)」が 39.6%と多くなっています。このことからも、雇用経験や情報不足によって障害に対する理解が十分でないことが分かります。

発達障害は他の障害と比べ、特性への配慮と必要な職場環境が整っていれば勤怠が安定しやすい障害です。また身体障害に比べて若年層が増えており、企業内での業務貢献、活躍が期待されます。
ただし障害の特性や度合いは個人で大きく異なります。そこで、一人ひとりに目を向け「この人は何ができて、何が苦手なのか」「どんな強みや長所があるのか」と、個人に対する理解を深めることが大切です。
障害特性と必要な配慮について、勉強会や研修などを通じて社内理解を深めましょう。