IT・情報通信業界は、障害者雇用への課題を抱える企業が多い業界の一つです。厚生労働省が発表した「令和元年 障害者雇用状況の集計結果」によると、同業界において法定雇用率を達成している企業は全体の26.9%で、産業別としては最も低い結果となっています。そこで、IT・情報通信業界での障害者雇用状況と、雇用が進まない理由、雇用成功のためのポイントを、当社がご支援した雇用成功事例と共にまとめました。

目次

IT・情報通信企業における障害者雇用の状況

IT企業における障害者雇用は思うように進まない傾向にあるようです。
厚生労働省が発表した「令和元年 障害者雇用状況の集計結果」によると、民間企業の法定雇用率2.2%に対して実雇用率は2.11%、そのうちIT・情報通信業界の実雇用率は1.74%(前年比1.7%増加)という結果でした。
企業達成割合を見ると、産業全体では48.0%に対し、IT・情報通信業界は最も低い26.9%(同1.5%増加)となっています。雇用している障害者の数自体は27,167.0人(同1372.5人増加)という結果でした。

■産業別 実雇用率と雇用率達成企業割合

業界 実雇用率
(全体:2.11%)
達成企業割合
(全体:48.0%)
医療・福祉 2.73% 61.6%
生活関連サービス業・娯楽業 2.32% 41.7%
電気・ガス・熱供給・水道業 2.25% 48.0%
運輸業・郵便業 2.19% 54.4%
製造業 2.12% 53.9%
金融業、保険業 2.10% 38.7%
サービス業 2.09% 46.0%
宿泊業、飲食サービス業 2.06% 46.1%
複合サービス事業 1.98% 42.7%
卸売業、小売業 1.94% 38.1%
学術研究、専門、技術サービス業 1.93% 33.6%
建設業 1.88% 48.0%
不動産業、物品賃貸業 1.75% 33.8%
情報通信業 1.74% 26.9%
教育、学習支援業 1.69% 37.5%

(出典:厚生労働省「令和元年 障害者雇用状況の集計結果」

障害者の雇用が進まない背景は

IT・情報通信業界での障害者雇用が進まない背景には、労働環境や職種など、業界特有の事情をはじめ、様々な要因があるようです。

1. IT業界特有の勤務形態による課題

客先常駐による勤務形態が多い企業の場合、メンバーの入れ替えや勤務地変更など柔軟に対応する必要があることや、雇用管理や問題が起きた際に十分な対応ができないという懸念から、雇用できる人材や人数、業務が限られるという課題があります。特に、チームやグループ単位ではなく数名の従業員のみ常駐している場合は、こうした課題が多く見られます。
常駐先での雇用が難しく本社での雇用を前提とする場合、配属部署や業務は限られるため、雇用を拡大できないという声も多く聞かれます。

2. 採用ターゲットが限定され、雇用に偏りが発生

業務量や納期が一定でないことから、プロジェクトの進行によって一時的に負荷がかかることがあります。また、メンバーや常駐先のクライアント担当者とのコミュニケーションが多く発生する職域もあります。そのため、配慮が必要な方や柔軟なはたらき方が難しい方、コミュニケーションに制約がある方などは採用対象外とされるケースがあります。結果として、配慮が少ない身体障害者に採用ニーズが集中し、人材が集まらない、必要な雇用数を満たせない企業が多くなっています。
※過去に、業務負荷増により体調を崩したり、従業員がうつ病を発症したなどの経験から、精神障害者を雇用対象外としている企業も少なくありません。

3. 必要なスキルや経験を持った障害者を採用できない

技術職が多いIT業界はシステム設計や開発に必要な専門知識が必要とされますが、求める知識や経験を持った人材を探すことが難しいという課題があります。
また、企業側が「障害者には対応できない業務」と考え、積極的に採用しないことも要因となっていると考えられます。
加えて、障害者雇用枠での採用において人材要件が狭められることも、職務能力の高い方の雇用が増えない一因となっていることがあります。一例として、雇用形態は有期雇用のみとしている、年収は一般雇用枠より低い額で設定されている、社内の人員構成から若手の方を主な対象としている、などがあげられます。

IT・情報通信企業を志望する障害者の傾向や、重視すること

IT業界ではたらきたい障害者の傾向や、はたらく上で重視していることは何でしょうか。

1. 障害への理解・配慮と、自分に合ったはたらき方を重視したい

障害者雇用枠での就業を希望する方は、障害名や障害特性への理解を得た上ではたらくこと、通院や服薬、通勤や勤務時間、労働環境など必要な配慮を受けてはたらきたいと考えています。そのうえで、勤務時間や休みの取りやすさ、人との関わりがどの程度あるのか、自身が持っているスキルと業務貢献度・はたらき方が釣り合っているかを重視しています。

技術職の実務経験のある障害者の中には、業務過多等によって受傷した方もおり、技術職は避け事務職を選ぶ傾向があります。
また、部署内で障害への理解や配慮が十分でなく、採用しても休職・離職に至ってしまう問題も多く見られます。

2. 技術職に挑戦したい障害者は多い

障害があっても社会的・経済的に自立できるよう、専門知識を学び、活かせる技術職への就職を目指す障害者は少なくありません。最近ではプログラミングやIT業界で必要なスキルを学べる講座や、障害受容や配慮のスキルを習得できる就労移行支援事業所も増えており、未経験の障害者がこうした場を活用してスキル習得と就職を目指しています。

IT・情報通信企業の雇用拡大、成功のために

雇用拡大が難しい中、雇用を拡大し、定着・活躍を図るためにどのようなことができるでしょうか。

1. 障害名よりその人自身の志向や自己理解、職業準備性を見極める

「身体障害者でなく、精神障害者だから」という理由だけで採用対象外とするのではなく、その人自身がどのような能力や志向を持っているか、その志向が自社と合っているかを見ることが大切です。
精神・発達障害者でも、自身の障害や必要な配慮を理解し伝えられる人は定着・活躍できる可能性があります。業務負荷が多い技術系の職種での雇用は難しくても、技術職のアシスタント業務などで活躍できる人材もいるはずです。
選考を通じて、自己理解や必要な配慮が分かっている方かを見極め、それを踏まえて採用可能性を検討してみてはいかがでしょうか。
民間の職業紹介サービスに登録している方や就労移行支援事業所を利用している方は、自己理解が進んでおり、はたらく準備(職業準備性)が整っている方が多いのが特徴です。そうしたサービスや支援機関を活用し、自社で活躍できる人材を探してみると良いでしょう。

2. 企業全体で、障害理解や雇用定着に取り組む

雇用計画や人材確保など、障害者雇用に関することは、ハローワークや地域の支援機関に相談しましょせっかく採用しても、社内や配属先で障害への正しい理解がなく、それが原因でトラブルが発生するケースも少なくありません。
例えば過去に、体調を崩したり、うつ病などを発症した従業員がいたことで、精神障害に対して偏ったイメージを持っている従業員もいるかもしれません。受傷初期の方と、障害を受容し自己理解ができている方は同じではないこと、必要な配慮などの理解を深めることが、雇用成功の第一歩です。
常駐先であっても、チームで派遣されている配属先であれば、コミュニケーション可能な障害者であれば雇用・定着できる余地はあるかと思います。その際、周囲のメンバーに障害特性や配慮内容への理解があれば、定着可能性も高まります。
また、雇用後は人事部が配属先と連携し、定着のために取り組むことが大切です。定期面談や声がけなどを通じて、不安や課題が起きていないかを注視し、問題が発生したらすぐに対応する体制を整えておくことが大切です。

3. 技術職、専門職でもはたらける障害者はいる

バックオフィス業務に限らず、技術職や専門職でもはたらける障害者もいます。求められるスキル要件や職務能力を満たす方や、必要な配慮があれば問題なく就業できる方もいらっしゃいます。近年は企業側も、求めるスキルがあれば障害があっても採用するケースも増えています。
特に、近年雇用人数が急増している発達障害者は若年層も多く、正確性・緻密性が高い方や、地道に業務に取り組める方が多く、技術系の職種で活躍できる可能性が高い方が増えています。
就労移行支援事業所などと連携し、インターンの受け入れや研修を通じて、採用可能性のある人材を探ることも有効でしょう。

発達障害者×IT人材育成への取り組みが増加

障害者雇用市場では現在、身体障害者が高齢化し減少する一方、若年層の発達障害者が急増していますが、雇用市場の主力となる発達障害者に対し、IT分野で活躍する人材に育成しようという取り組みが増えています。
WEB・IT分野に特化した障害者の就労移行支援を行う「アーネストキャリア」は、発達障害者の特性を活かしたRPAエンジニアの育成プログラムを開始。このプログラムを自社の人材育成に活用する企業も現れています。
当社パーソルダイバースでは2019年11月より、AIやデータサイエンスなどの先端IT領域を学べる就労移行支援事業所「Neuro Dive」を開設しています。企業からの関心も高く、インターン受け入れや実習講座を実施する予定です。
今後、高い職務能力や知的能力のある発達障害者が、その能力を活かして貢献・活躍できる機会は増えていくでしょう。採用ターゲットを広げ、事業活動に貢献できる戦力として活躍できる人材の採用を検討してみてはいかがでしょうか。

4. 採用ターゲットを見直す

職務能力や志向、経験があっても、1年以上の実務経験を必須としていることや、年収、雇用形態などの条件面で応募できないケースがあります。
採用ターゲットや条件を見直すことで、人材探しや母集団形成を改善することができます。

採用ターゲットの変更による採用改善については、以下の記事をご覧ください。

IT・情報通信企業の障害者雇用事例

1. 常駐先での障害者採用事例

客先常駐によるシステム開発・保守事業を行っている大手IT企業のA社では、プロジェクトの現場事務アシスタント職の人材探しを行っています。
当社の人材紹介サービスを通じて、交通事故により受傷された身体障害のある方をご紹介しました。この方は前職で事務作業の経験はあるものの、IT企業での就業経験はありません。しかしA社の常駐先で求められるのは、ITの専門知識より、コミュニケーション力と事務のスキルがあることでした。また、この方の希望は「自宅と勤務地が近いこと」「労働条件が良いこと」の2点で、いずれもA社の条件と合致していました。
ご紹介した方は業務で必要とされる事務スキルと、コミュニケーション力は全く問題ないこと、就業上必要な配慮をしっかり伝え、環境を整えていただくことをA社に約束いただき、選考の結果、採用に至りました。

2. 募集要件の見直し・変更による採用成功例

電機系メーカーの子会社でサーバー運用保守・管理を行うB社は、親会社からの指示で、新たに障害者雇用に取り組むことになりました。B社の従業員は150名程度ですが、これまで障害者を雇用した実績がなく、相談いただいた当時は採用要件も定まっていませんでした。
当初は契約社員として募集をしていましたが、求めている人材が集まらず、母集団の確保もできない状態でした。そこで当社は、雇用条件を契約社員だけでなく正社員にひろげることをご提案しました。
雇用条件に正社員が加わったことで、IT業界で開発マネージャーの経歴を持つ身体障害者(心臓機能障害のある方)をご紹介することができました。この方は自身のスキルを活かし、正社員として社内業務に従事したいという希望をお持ちでしたが、その希望とB社の求める条件が合致し、採用に至りました。

3. 企業として採用から配属、定着のためのフォローを徹底して行っている事例

従業員2000名を超え、国内に複数の拠点を持つ大手IT企業のC社は、社内10部署のほぼ全てにおいて、最低一人以上の障害者を雇用するという方針のもと、雇用を進めています。
主な業務は事務作業のアシスタントですが、配属先によって資材の発注業務や営業アシスタント、法務資料の管理・照合まで、様々な業務に取り組んでいます。はじめから業務や配属部署を絞り込むのではなく、一人ひとりの志向や能力、可能性を鑑みた上で、本社勤務や拠点配属、担当する業務を決定しています。
以前は身体障害者に特化して雇用してきましたが、近年は精神・発達障害も採用ターゲットに含めています。雇用が拡大していく中、同社では障害者の定着のため、本社の人事部内に相談窓口を設置しました。障害者の希望に応じて30分程度の面談を行っているほか、トラブルが発生した際や質問があった際にすぐに対応できるよう、電話やメール等で受け付ける体制を整えています。その他、本社内や各拠点を定期的にまわって一人ひとりに声をかけたり、部署の管理者と連携しながら定着に取り組むことで、雇用上のトラブルによる退職をなくすことができています。

まとめ

障害者がIT業界で従事できる業務は、人事や総務などのバックオフィス系から、開発やプログラミングなどさまざまです。障害名だけで採用ターゲットを決定せず、障害者一人ひとりの特性や指向性に合わせて業務や雇用形態を考えると良いでしょう。
障害特性や必要な配慮などの理解を深めること、雇用後は現場と連携して定着のための支援に取り組むことも大切です。
専門知識が必要なIT業界で障害者がはたらくには、バックオフィスや事務などの配置が優先になる場合が多いですが、作業単位で見た場合、現場配属でも担当できる業務はあります。管理の人手が不足している場合などは、同じ部署に集中して雇用する集合配置雇用などを検討してみましょう。