合理的配慮の提供を民間事業主に義務付ける改正障害者差別解消法が2021年5月、参議院本会議で可決、成立しました。これまで、合理的配慮の義務付けは国や自治体のみで、民間事業者には努力義務となっていましたが、今回の改正によって、今後は義務として、配慮提供が求められることとなります。
また、差別解消をめぐる相談窓口が分かりづらく、相談者がたらい回しにされる事例が発生している現状を鑑み、国と地方自治体の連携協力の責務規定を新設し、当事者や企業側からの個別の相談に対応できる体制の整備や、紛争防止や解決にあたることができる人材の育成・確保が進められる見込みです。
改正法は公布日(2021年6月4日)から起算して3年以内に施行されます。

合理的配慮の提供義務化 企業に求められる対応は

障害者差別解消法は、障害による差別を解消し、誰もが分け隔てなく共生する社会を実現することを目的として2013年6月に制定された法律です。主に、不当な差別取り扱いの禁止と合理的配慮の提供について定めています。

法律で定められている合理的配慮とは、障害のある人とそうでない人の機会や待遇を平等に確保し、支障となっている事情を改善、調整するための措置です。
障害者の雇用における合理的配慮提供については、雇用分野に特化した法律である障害者雇用促進法で義務化されています。例えば、障害があることを理由に低い賃金を設定したり昇給を認めない、研修や実習を受けさせない、職務能力や適性などに基づかない判断で一般雇用者を優先する・・・などは、障害を理由にした差別にあたるとして、禁止されています。

今回、雇用以外のあらゆる分野を対象にしている障害者差別解消法が改正されたことによって、雇用している障害のある社員だけでなく、商品やサービスを利用する障害者に対し、配慮提供が義務化されることになります。例えば、障害を理由にして店舗への入店や受付、サービスの提供を拒否する、本人を無視して周囲の支援者や介助者のみに話しかける、といったことは差別にあたります。
段差がある店舗にスロープを設置する、セミナーや説明会で手話通訳や筆談、音声ガイドを用意する、
などの配慮が求められるでしょう。障害者に対し、負担が重すぎない範囲で対応することが求められます。仮に、負担が重すぎる場合には理由の説明や別の方法の提案により、障害のある人の理解を得られるよう努めることが大切です。

今回の改正にあたって、内閣府内に設置された障害者政策委員会では「合理的配慮の提供は、障害者と行政機関、事業者との間での建設的対話を通じて行われるべきだ」との意見が提示されました。今後は、どのような配慮が必要でどのように取り入れれば過度な負担がなく実現可能であるかを、障害者と対話することが求められるでしょう。
また、組織としても、マニュアルの整備や研修等を通じ、障害や、合理的配慮に関する理解や共通認識の醸成を進める必要があるでしょう。