障害者雇用では、合理的配慮の提供は法的義務として定められています。
企業は障害者を雇用する際、障害者一人ひとりに対して提供することが義務づけられています。では合理的配慮とは具体的にどのようなもので、なぜ提供する必要があるのか、雇用側はどこまで提供する義務を負っているのか、配慮提供までのプロセスや職場での提供例まで、企業側が知っておくべきポイントをまとめました。

目次

合理的配慮とは何か

合理的配慮とは、障害のある人とそうでない人の機会や待遇を平等に確保し、支障となっている事情を改善、調整するための措置です。改正障害者雇用促進法の施行により、事業主に対し障害のある人への合理的配慮の提供が義務付けられるようになりました。

雇用における合理的配慮を考える上で重要なのは、配慮の内容や程度は、障害の内容や周りの環境、配慮を行う側の状況により変わるということです。一人ひとりの特性や職場の状況を考慮し、どのような配慮が必要でどのように取り入れれば過度な負担がなく実現可能であるかを、障害がある人と企業、周りの人たちが話し合って決めていくことが大切です。

合理的配慮という考え方が広まった歴史的背景

合理的配慮という言葉自体は1970年代からあったといわれていますが、広く知られるようになったのは、2006年に国連総会で採択された「障害者権利条約」にて定義されたことがきっかけです。条約の中で「合理的配慮を否定することは、障害を理由とする差別である」ことが明示されたということが、とても重要だとされています。

また、条約が策定される過程で多くの障害者が関わったことも大きな意義を持ちます。障害がある人たちの声「Nothing about us without us(私たちのことを私たち抜きで決めないで)」を合言葉に、障害者が主体となり進められました。「合理的配慮」は、当事者としての意思表示が重要であり、障害の程度や環境に応じて個別の対応が求められるものとして、世界中に浸透されていきました。

こうして4年の月日をかけて作られた条約は、2006年12月に国連総会で採択され、翌2007年に日本も署名しました。
その後、日本では、さまざまな障害者制度の改革が実施されます。2011年に「障害者基本法」が改正、2012年に「障害者総合支援法」、2013年には「障害者差別解消法」と「障害者雇用促進法」が成立し、合理的配慮の概念は徐々に広がっていきました。

特に「障害者基本法」の第一条(目的)に初めて「共生社会の実現」が明言されたことにより、合理的配慮が大きな意味を持つこととなりました。さらに「障害者差別解消法」の目的にも、「障害のあるなしに関わらず、その人らしさを認め合いながら共生社会をつくること」と明文化されています。

合理的配慮を行うことが、障害のある人とない人との相互理解を生み出し、共生社会の実現につながっていくと考えられています。

職場における合理的配慮の種類・視点

職場において事業主は、以下のような視点から「過度な負担にならない範囲」で合理的配慮を提供する必要があります。

募集・採用時

  • 障害がある人が、採用試験を受けられる環境整備がなされているか
  • 障害のある人との意思疎通や配慮事項を確認できる準備がなされているか

採用後

  • 障害のある方に対する安全面や疲労面を考慮した環境整備がなされているか
  • 障害の特性を考慮した作業提供がなされているか

上記のような対応を「障害」を理由に拒否することは禁止されています。また、事業主が一方的に場所や時間帯を制限するなど、障害者の権利や利益を害する行為も禁止事項です。
なお合理的配慮は、障害者一人ひとりの特性や状況により対応内容が異なります。また、企業の環境や状況によっても求められることが変わるため、多種多様な合理的配慮が存在しています。
よって具体的な対応については、障害者本人と事業主がよく話し合って決めることが重要です。障害者本人と事業主の相互理解が、合理的配慮の第一歩といえるでしょう。

合理的配慮Q&A

雇用側が合理的配慮を提供するにあたって、合理的配慮がなぜ必要なのか、具体的にどのようなものなのかをしっかりと知る必要があります。この章では、雇用担当者が理解しておくべきポイントをQ&A方式でご紹介していきます。

1. なぜ合理的配慮は必要なの?

合理的配慮はなぜ必要なのでしょうか。それは、「障害のある人とない人では、そもそものスタートラインが違う」ためです。
障害がある人に合理的配慮を行おうとすると、「障害者だけに特別な配慮をするのはおかしい。みなが平等であるべきだ」「差別ではないのか」と主張する人がいます。この主張は正論にも感じますが、実はとても大事なことを見落としています。それは、「平等」と「公平・公正」の違いです。
その違いを図でわかりやすく表してみます。

上の画像は左図が平等を、右図では公平・公正を表しています。左図の「平等」とは、全員に対して同じものを与えることを指します。背が高い人にも、低い人にも同じ高さの踏み台をあげるということです。この場合、同じスタートラインに立っていなければ、踏み台をもらってもパンダが見られない人が出ます。

一方、右図の「公平・公正」は、人々に同じ機会へのアクセスを確保することを表しています。つまり、「全員がパンダを見られるようにすること」を目標としているのです。障害がある人は抱えているハンディキャップの分、障害がない人と比べてそもそものスタートライン(ここでは身長)が違うのです。

合理的配慮が行われ公正さが保障されてからこそ、初めて平等な環境が得られます。平等になるようハンディキャップの分を埋めて、障害がある人とない人のスタートラインを合わせるためにも、合理的配慮は必要な措置なのです。

2. 対象となる障害者は?

障害者雇用促進法第2条第1号では、合理的配慮の対象となる障害者は「身体障害、知的障害、精神障害、発達障害、その他の心身の機能の障害があるため長期にわたり職業生活に相当の制限を受け、又は職業生活を営むことが著しく困難な者」とされています。

法律では、障害者手帳所持の有無や週所定就業時間などの限定はしていません。障害の原因や種類、障害者手帳の有無に限定されず、長期にわたり就業生活に制限や就業生活が著しく困難な人であれば、合理的配慮の対象者に含まれます。

ただし、業務の難易度からみて障害の程度が軽く、就職・就業においてハンディキャップとならない人や、病気やケガなどにより一時的に職業生活に制限を受ける人は対象外となっています。

3. 法律で定められた義務とは?

雇用においての合理的配慮を考える上では、「障害者差別解消法」と「障害者雇用促進法」についてしっかりと把握する必要があります。この2つの法律に、事業主が提供しなければならない合理的配慮の義務についても触れられています。下の表では、それぞれの法律で定められている対象分野と提供義務の違いについてまとめました。

障害者差別解消法 障害者雇用促進法
対象分野 雇用分野以外のありとあらゆる分野 雇用分野に特化
合理的配慮の提供義務 国・自治体:法的義務
民間事業主:努力義務(※)
国・自治体:法的義務
民間事業主:法的義務

障害者差別解消法における合理的配慮は、雇用以外が対象となっているため、民間事業主は「努力義務」である、としています(※)。一方で、障害者雇用促進法は雇用に特化した法律で、雇用期間が対象となっており、その期間中の配慮提供は「法的義務」であるとしています。つまり民間事業主は、雇用期間は配慮を必ず提供する義務がある、ということになります。

(※:2021年5月、改正障害者差別解消法が可決・成立し、民間事業主は雇用以外についても合理的配慮が義務付けられることになりました。本改正法の施行は公布日から3年以内となっています)

合理的配慮の提供は事業主に義務付けられているため、必要な費用は個々の事業主が負担することが原則です。ただし、事業主に対して「過重な負担」になる場合は、合理的配慮を提供する義務はありません。

4.「過重な負担にならない範囲」とはどういう意味?

合理的配慮に関わる措置が、事業主に「過重な負担」がかかる場合、合理的配慮を提供する義務はないとしています。ただし、その場合であっても双方で十分に話し合い、お互いの意向を尊重した上で、「過重な負担にならない合理的配慮」に代わる何らかの措置が必要です。
「過重な負担」に当たるか否かは、下記の要素を考え合わせながら、事業主が判断することになります。

負担の要素 内容
事業活動への影響の程度 合理的配慮の提供を行うことにより、事業所における生産活動やサービス提供への影響の程度
実現困難度 事業所の立地状況や施設の所有形態によって、措置を講ずるための機器や人材の確保、設備の整備等の困難度
費用・負担の程度 措置を講ずることによる費用・負担の程度
企業の規模 企業の規模に応じた負担の程度
企業の財務状況 企業の財務状況に応じた負担の程度
公的支援の有無 措置に係る公的支援を利用できるかどうか

上記以外にも、「過重な負担」にならないが合理的配慮に関わる措置が複数ある場合には、事業主と障害者の双方で十分に話し合い、意見を尊重した上で、より提供しやすいと考える措置を選択することが大切です。

5.罰則はあるの?

障害者が継続して勤務できることが最も重要であるという考えのもとで法整備がされているため、罰則規定等は設けていません。提供義務などに違反した事業所に対しては、助言や指導、勧告といった行政の指導が入り、雇用管理の改善が促されます。

なお、行政の改善指導・勧告に対しては、事業者による報告が求められています。雇用管理に関する報告をしない、または虚偽の報告をした場合は、20万円以下の過料支払いが発生します。

合理的配慮提供の流れとポイント

  1. 採用時に本人から申し出てもらう
  2. 当事者・企業側双方で話し合い
  3. 情報共有や引継ぎ、フォロー体制を整える
  4. 配慮内容の見直しを定期的に実施する

合理的配慮の内容や程度は、配慮を求める本人と周りの環境、事業者側の状況などにより変わります。双方が納得できる合理的配慮を実現するには、お互いによく話し合い、合意を形成していくことが大切です。合理的配慮の提供は次のフローで行われるとよいでしょう。

1. 採用時に本人から申し出てもらう

合理的配慮の内容とその程度については、「本人が必要としている配慮である」ことが絶対条件となるので、まずは本人にどんな配慮が必要なのか申し出てもらわなければなりません。ただし、障害がある人の中には「自分からどのような配慮が必要なのかを説明する必要がある」ことを、きちんと理解していない人もいますし、「配慮が必要であることを伝えれば落とされるのではないか」という不安から、言い出せない人もいます。事業者は以上の点を踏まえた上で、以下の2点を行わなければなりません。

事業者がすべきこと

  • 採用面接時などに、合理的配慮について本人の希望を聞く時間を設ける
  • 希望を聞く際は誤解のないように説明し、本人が申し出をしやすい環境を作る

本人から「障害者があること」を申し出されたときはどう確認する?

採用時に本人から障害者であることを申し出されたが、合理的配慮の対象となるのか判断に迷うということもあるでしょう。そのような場合は次の方法で確認するようにします。

  1. 障害者手帳を所持している障害者については、障害者手帳で確認する
  2. 「障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律」に基づく受給者証又は「難病の患者に対する医療等に関する法律」 に基づく医療受給者証を所持している障害者については、受給者証の提示により確認する
  3. 上記以外の方で、統合失調症、躁うつ病(躁病及びうつ病を含む)、てんかん、発達障害、 高次脳機能障害の方などについては、障害名又は疾患名を記載した医師の診断書又は意見書により確認

2. 当事者・企業側双方で話し合う

本人が希望する配慮について、当事者と企業側双方で十分に話し合います。ここでは、どのような配慮を提供するかに加えて、「実現可能かどうかの判断」「配置部署に配慮の内容をどこまで伝えるのか」「配慮内容の確定をどう伝えるのか」の3点を確認することがポイントです。

実現可能かどうかの判断

合理的配慮は、提供する側が「過重な負担」にならない範囲で行う必要があるため、マンパワーや資金力、スペースなどの都合で、事業主に過大な負担がかかる場合は、無理に実行しなくても構いません。
実現不可能な場合は、本人になぜできないのかを説明した上で次善の策を講じる努力が求められます。

配置部署に配慮の内容をどこまで伝えるのか

合理的配慮が実際に行われるには、配置される部署の上司や同僚に配慮の内容を共有し、理解してもらう必要があります。一方で、プライバシー保護の観点からも、配慮の内容をどこまで伝えるのかは慎重に考えなければなりません。ここでも重要となるのが、本人との合意です。「配属部署にどこまで伝えていいか」についても、当事者と事前に話し合っておきましょう。

配慮内容の確定をどう伝えるのか

企業側は、障害者が希望する配慮に対し、提供できる配慮を確定した後、その内容と理由を障害者に説明しなければなりません。また、障害者から希望された配慮に対して、企業が「過重な負担」と捉えた場合は、その理由を分かりやすく説明するとともに、代わりとなる配慮がある場合にはそちらを提示します。

3.情報共有や引継ぎ、フォロー体制を整える

話し合いでは配慮の内容が決まっても、現場との情報共有がなされていないために、配慮がうまく実行されないことがあります。上司や同僚が替わる度に、合理的配慮に関する引継ぎがなされず、現場の理解が得られない、本人から何度も合理的配慮について説明しなければならない、ということも起こりえるでしょう。

このような事態を防ぐには、社内で合理的配慮の引継ぎに関するルールを作成し、現場で合理的配慮に対する理解を広げることが大切です。また、サポートできる担当者を置く、同じ部署の社員にフォローを依頼するなど、相談しやすい体制を作っておくことも理想です。

4. 配慮内容の見直し・改善を定期的に実施する

合理的配慮は、実施すれば終わりという訳ではありません。定着させるためには最後のプロセスである「見直し・改善」がとても重要です。時間が経つにしたがって障害の程度や中身も変わっていく可能性が高く、定期的に「障害の内容・情報の更新」が必要となるためです。定期的に面談などの機会を設け、配慮の内容が適切か、職場で支障になっていることはないかを確認しましょう。定期面談の実施にあたっては、人事部門もサポートに入り継続的な実施が出来ると望ましいでしょう。

社内のリソースが不足している場合には、専門知識を持った障害者雇用専門のコンサルタントへの相談を検討されてはいかがでしょう?適切な合理的配慮を整えるためには、障害のある社員のみならず、雇用管理者に対する支援も必要不可欠です。
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企業による障害特性に応じた合理的配慮の提供例

障害の種類や特性に応じて、様々な合理的配慮の提供が必要となります。実際に雇用の現場ではどのような配慮が提供されているのでしょうか。障害の種類別に事例を複数紹介していきます。

1. 身体障害(視覚障害、聴覚障害、肢体不自由、内部障害)

身体障害には視覚障害や聴覚障害、肢体不自由など、さまざまな種類の障害があるため、企業などで提供されている合理的配慮にも多くの事例があります。

視覚障害

視覚障害は、視力と視野、2つの観点から障害の程度が定められています。個人によって見える範囲や見え方が異なるため、障害の程度を確認しておくことが大切です。
特に職場では、中心視野の確保が重要になるといえるでしょう。目の前の危険物に気づくことができるほか、伝票やPC画面の文字を読みとることができる可能性が高いためです。
近年では画面読み上げソフトなどの就労支援機器も発達しているため、事務職での採用など、職域が広がっていることが特徴です。

合理的配慮提供例:

  • 出・退社時のラッシュ時刻を避けるため、フレックスタイムの活用や個別の時差通勤を認めている
  • 声をかける時には自分の名前を名乗ってから話す(音声で誰なのかを判別するため)
  • 文字ではなく音声で説明・案内・指示を行う
  • 拡大文字・音声ソフトなどを導入する
  • オフィスの座席や会議室の場所、使う備品の位置などを事前に周知する
  • 必要に応じて周囲の人が誘導する

視覚障害の特性や配慮については下記記事で解説しています。

聴覚障害

聴覚障害の特徴は、外見からは障害があるか分からないことが多いため、コミュニケーションについての正しい理解が得にくいことです。「補聴器をつければ問題ない」「聴覚障害者だから全く聞こえない」など、音の聞こえ方や程度が伝わりにくいことが多いといわれています。また、音声から得られる情報が不足するため、「情報障害」となる恐れがあることも理解しておくことが大切です。
コミュニケーションの手段である手話や読唇などは、できる人とできない人がいるため、障害の程度とともに方法を確認しておきましょう。

合理的配慮提供例:

  • 意思疎通を円滑にできるよう、PCを用意して筆談で入社手続きを実施
  • 携帯電話やタブレット端末にアプリケーションをインストールして、やりとりを行う
  • 筆談やメール、PCチャットを用いてコミュニケーションを行う
  • 音声を文字化するツールを導入する

肢体不自由

肢体不自由とは、上肢、下肢、体幹機能の一部または全部に障害があることを指します。上肢に障害がある場合は、細かい物をつかむ・操作するなどの作業や、物を運ぶ・持ち上げるなどの作業が困難な場合があります。下肢に障害がある場合には、立ち座りや同じ姿勢を保つこと、移動や段差の昇り降りなどが困難なことがあります。運動や行動に制限のある障害のため、できるだけ身体への負担が少ないように配慮することが大切です。

合理的配慮提供例:

  • 入り口から近い場所を面接場所にすることで、受付から面接場所への移動の負担を軽減する
  • 移動頻度の少ない業務を担当してもらう、また移動が少なくてすむように必要な備品や書類を近くに配置する
  • 出・退社や打ち合わせ、面接に際しては、体調や時間に配慮する
  • 必要に応じてスロープや手すりを設置する、机の高さを調整する

内部障害

内部障害とは、心臓や腎臓、肝臓、呼吸器、膀胱や直腸、小腸などの機能障害、またヒト免疫不全ウイルスによる免疫機能による障害が該当します。障害によって体力が低下している場合は、勤怠や業務量の調整、通院などに対する配慮が必要です。また外からは見えづらい障害のため、特性を確認・把握し、必要に応じて本人同意の上で周囲に説明し、理解を深めてもらうことも大切でしょう。

合理的配慮提供例:

  • 障害者本人の同意のもと、配属先メンバー全員が定期通院日の休暇・遅刻・早退を把握しており、急な体調不良時にはメンバーがサポートできる体制を作っている。
  • 体調不良時はいつでも、休憩スペースで横になって休んでもらえるようにしている。

2. 精神障害

精神障害とは、さまざまな精神疾患が原因となって起こる障害です。代表的な疾患は統合失調症や、気分障害(うつ病、双極性障害)などがあります。配慮事項は原因となる障害特性によって異なるため、本人に十分確認することが重要です。また心身が疲れやすいという特性があるため、最初は短時間勤務から始め、徐々に勤務時間を延ばす、こまめに休憩を促すなどの配慮も大切です。

合理的配慮提供例:

  • 他の従業員の出入りがない個室の会議室で面接を実施
  • 面接前に障害特性を確認し、面接の場でも改めて本人より説明を依頼する
  • 業務指示を行う際はメモをとってもらい、業務手順や方法はマニュアルにまとめ、メモとマニュアルをもとに業務を進めてもらう
  • 必要に応じてマニュアルを更新してもらう
  • 作業の優先順位や期限を明確にしておく
  • 静かに休憩できる場所を確保する。こまめに休憩を取るよう声かけを行う

精神障害の特性や配慮については下記記事で解説しています。

3. 発達障害

発達障害は、自閉症スペクトラム障害、学習障害、注意欠陥多動性障害などがあります。障害の特性としてコミュニケーションに困難を抱えている、集中力が途切れがち、もしくは過集中に陥る、文章の読み書き・計算など特定の課題に困難を示す場合があります。採用時や就業においては、指示や説明を明確に行うこと、ルールを決めておくことなどの配慮が求められます。

合理的配慮提供例:

  • 業務指示の際、作業のプロセスや期限、分からないことがあった際の対処方法まで、細かく明文化して説明する
  • 図などを用いたマニュアルを活用し、作業手順を伝える
  • 指示は一つひとつ出す
  • 音や光に敏感な従業員に対しては、つい立てなどを用いる、耳栓などの使用を許可するなど作業に集中しやすい環境を作る

発達障害の特性や配慮については下記記事で解説しています。

4. 知的障害

知的障害とは、知的機能の発達に遅れがあり、日常生活に支障が生じている・意思交換が苦手など、援助が必要な状態であることを指します。一方で「知的機能の遅れ」といっても、その程度はさまざまです。知能指数だけで判断するのではなく、個人の意欲や能力、体力を加味して理解をすることが大切です。
障害の度合いや程度によりますが、物事を判断することや臨機応変な対応を行うことや、一度に大量の情報を処理すること、抽象的なニュアンスや場の空気を読むことが苦手なことがあります。曖昧な指示をせず、分かりやすく具体的に説明する、理解度を把握し、何かあったらすぐに質問を受けるようにしておくなどの配慮をするとよいでしょう。

合理的配慮提供例:

  • 分かりやすい言葉や短い文章、イラストを用いて説明する。
  • 業務の現場ごとに業務指示や相談を受ける担当者を決めておき、分からないことはすぐに聞けるようにしている。

障害者雇用における「処遇」と「配慮」は天秤の関係

ここで、合理的配慮に留まらず、障害者の雇用あたって最も大切な考え方を紹介します。
障害者を採用する際には「処遇」と「配慮」のバランスがとても重要になります。
「処遇」とは労働者の業績に対する評価によって給与や報酬、業績責任、ノルマという形で表されるものです。
一方、「配慮」とは、障害があっても能力を十分に発揮して業務を行えるように提供されるものです。

障害者の雇用は一般雇用に比べ、勤務時間や休憩の取り方、業務指示の方法、通院の許可、サポート担当者の配置など、「配慮」の部分が重くなることが特徴です。 そのため、天秤は下図のような形になることが多くなります。

「配慮」にかかる作業や費用が格段に重くなると、本人の能力は変わらないのに、企業は評価を下げざるを得ないことがあります。この状態は、企業にとっても利益にならず、障害者にとっても望むものではありません。

処遇と配慮のバランスを取るために、本人と事前にしっかり話し合う、異動のルールを見直す、適正に評価するために人事・評価制度を見直すなどの方法が考えられます。また、労働者の給与など、処遇を増やすことや、労働者がその能力を最大限発揮できるしくみを整えていくことが重要になります。

合理的配慮を提供した結果、処遇が異なることは差別に該当しない

採用や賃金、配置、昇格など、雇用におけるあらゆる処遇において、障害があることを理由に排除することや、不利な条件を付すことなどは禁止される差別に該当します。しかし、合理的配慮を講じた結果として他の労働者と異なる扱いになることに関しては、差別に当たりません。

派遣先における処遇と配慮のバランスとは

労働者雇用促進法では、派遣先は派遣労働者と契約をする際や福利厚生を実施する際に、障害者であることを理由に差別をしてはならないとしています。また、派遣元事業主は派遣契約締結の際に、障害者であることを理由に排除し、条件を不利なものにしてはならないと明記しています。
派遣によって処遇が変化する可能性がある場合は、本人と話し合いの場を設け、どのような配慮が必要になるのか、どの程度の配慮があれば処遇とのバランスが取れるのかを、十分話し合うことが重要になるでしょう。

まとめ:企業が合理的配慮を正しく、効果的に行うためのポイント

企業が合理的配慮を効果的に行う方法として、障害のある人が遂行可能な業務を切り出し、障害のある人のみを対象として求人を行うのもよいでしょう。採用後は「処遇と配慮」のバランスを見ながら、個々の障害と能力に合わせた配慮の提供を行うようにします。

合理的配慮を正しく行うためには、当事者側からどのような配慮が必要なのか、事業主側はどのような配慮なら提供できるのかをしっかり話し合って決めることが重要です。今回ご紹介した事例なども参考にしながら、企業全体の利益向上に繋がるよう合理的配慮の提供に取り組んでみてはいかがでしょうか。