※パーソルサンクス株式会社は、2023年4月1日付でパーソルチャレンジ株式会社と統合のうえ、「パーソルダイバース株式会社」となりました。
※インタビュー内では取材時の社名「パーソルサンクス」で記載しております。

障害者の社会進出や活躍が広がりつつある現在、雇用の在り方や価値を見直す機運が高まっています。パーソルグループの特例子会社であるパーソルサンクスは、グループの雇用促進にとどまらず、障害者雇用による地域活性化、第一次産業の担い手不足などの課題解決を目指し、障害者の新たな職域開拓や、社会性の高い事業への取り組みを進めています。今回は、パーソルサンクス代表取締役の中村淳さんに、障害者雇用で社会的価値創出を目指す背景や想い、これからの障害者雇用の在り方や特例子会社の果たす役割ついて話を伺います。

パーソルサンクス株式会社 代表取締役
中村 淳

1990年テンプスタッフ株式会社入社。営業企画室、広報室の後、2004年から人事部採用企画室室長に就任。2006年テンプスタッフフロンティア株式会社を設立、代表取締役社長就任。2014年株式会社フロンティアチャレンジ(現:パーソルダイバース株式会社)取締役就任。2016年にパーソルサンクス株式会社 代表取締役に就任し現職。

目次

障害者雇用も人材ビジネスも、根本にある考えは同じ

特例子会社パーソルサンクス(以下サンクス)はテンプスタッフ(現パーソルテンプスタッフ)の第一号の子会社として、1991年に設立されました。来年2021年には30周年の節目を迎えます。現在は445人が在籍しており、うち356人が障害者手帳を持っています。障害別にみると、知的障害がもっとも多く229人、続いて精神障害が66人、身体障害が61人となっています。スタッフの定着率が高いのが特徴の一つで、設立以来在籍されている方もいます。おかげさまで、「障害者が安心してはたらける会社」と支援者の方にも評価され、毎年、多くの方をご紹介いただいています。

設立当初は、法定雇用率の達成が大きな目標としてありました。それと同時に、派遣業を営むテンプスタッフには、派遣スタッフの方々にDMを発送する業務が多くあり、その仕事が障害者の方にピッタリだから雇用を進めようとの考えがあったようです。「ようです」と伝聞でお伝えしているのは、私自身はサンクスの設立には関わっておらず、その後もほとんど関わりを持たず別の仕事をしていたからです。

私は1990年にテンプスタッフに入社して以来、派遣の営業などに携わっていました。サンクスと深い関りを持つようになったのは、2004年に人事部で採用を手がけるようになってからです。テンプスタッフでは、事業が急拡大を遂げ、採用の業務を専任で行う部署の必要が生じていました。当時、私は派遣部門のマネージャーをしていたのですが、新設された採用部門の責任者を任されることになったのです。

ただ、メインの業務は新卒採用で、障害者雇用は数ある業務のうちの一つに過ぎませんでした。より正確には、私が採用を手がけはじめた段階では、特に手をかけなくても障害者雇用は十分にうまくいっていると思っていたのです。しかし、蓋を開けてみると、事業の拡大に障害者雇用がまったく追い付いていません。このままではマズイ、では誰がやるのか、中村がそのままやれ、という流れで本格的に携わるようになったのです。

障害者雇用については、知識や経験があったわけではありません。一から学ぶ必要はありました。ただ、障害者雇用というと何か特別なもののように感じられるかもしれませんが、人材ビジネスに携わってきた私にとって、これまでの業務と大きく異なるものではありませんでした。派遣ビジネスは、派遣スタッフの方々にご活躍いただくことで事業として成立します。特例子会社も、障害者の方々にご活躍いただくことで事業が成り立ちます。ほとんど同じではないでしょうか。

本音を言うと、今でも障害者雇用をしている意識はほとんどありません。「はたらきたくてもはたらけない人に仕事を紹介する」という人材ビジネスを、変わらずに行っている感覚です。パーソルグループには「雇用の創造、人々の成長、社会貢献」という理念があります。特例子会社の場合は冒頭に「障害者の」という一言が付け加えられるだけだと解釈しています。

自治体と連携し、地方での雇用創出に乗り出した

今でこそ地方創生や農福連携をキーワードに活発に展開している当社ですが、設立当初はオフィスワークを中心に手がけていました。大きく転換したのは2004年、短期間でたくさんの障害者の方々を雇い入れる必要が生じたことと関係しています。具体的な目標は、2年以内に100人規模の採用でした。達成するには、これまでにないことを行わなくてはならないのですが、数合わせのための雇用など絶対にしたくありません。人材ビジネスに携わる者として、数合わせという発想がまったく馴染まなかったのです。

では、どうすれば雇用を生み出せるのか、考えを巡らせました。当社にノウハウがあるのは知的障害者の作業領域と雇用です。思いついたのが、ノベルティを障害者の方に作ってもらうことでした。具体的には、作業の工程がわかりやすく真心が伝わりやすいクッキーです。テンプスタッフでは、10月2日を「テンプの日」として、派遣スタッフの方や法人のお客様に感謝の気持ちを込めたノベルティのクッキーをお配りしていました。これは私がかつて提案し採択されたのですが、自分の仕事がこうした形でつながってくるとはまったく予想もしていませんでした。なお、現在クッキーは「テンプの日」以外でもお配りしています。非常に評判もいいので、機会があればぜひ一度、召し上がっていただければと思います。

さて、手がけることは決まったので、次の課題は人材の獲得と場所の選定でした。既に東京では知的障害の方の獲得競争が始まっており、たくさんの方を一度に採用するのが難しい状況でした。しかし、折よく横浜市が市立附属病院の建替えのため旧館跡地に福祉施設を誘致していたのです。クッキー工房の企画を横浜市に提案したところ、とても前向きな反応をもらえました。そこで当社は80人規模の工房の開設を決定したのです。

この事業は横浜市側から見れば、80人規模の特例子会社を誘致して行政財産の再活用に成功したという実績になります。つまり、双方にとって理想の展開で、横浜市からは「協業」で事業をスタートという評価をいただいています。当社にとっても非常に大きな経験で、東京を離れれば、たくさんの障害者が活躍の場を求めていることが明確になり、自治体との連携に関する知見を得ることにもなったのです。

特例子会社だからできる製品を作り出す

当社が地方へ積極的に進出しているのは、地方には障害者雇用のニーズがあるからです。雇用率の状況を鑑みながら、障害者雇用で困っている自治体に赴きます。当社は民間企業のため、多くの場合、まずは企業誘致の担当者の方とお話します。群馬県にある「とみおか繭工房」も、きっかけは企業誘致でした。当社が手がけている事業を紹介し、行政や福祉の方々と親交を深める中で、富岡市は障害者の雇用を増やしたいのはもちろん、担い手不足となっている地場産業の養蚕業を活性化させたい思いを強く持っていることがわかりました。私は、障害者の方に養蚕と関わってもらう大きな意義を感じました。

とみおか繭工房は2017年に開設され、初年度は7人、次年度は20人の障害者を雇用しました。2018年度に生産した繭はなんと1トンを超え、同市全体の繭生産量の12%を占めるまでになりました。また、養蚕業を行いながら、繭の成分の入った入浴剤という独自のノベルティも作り出しました。この入浴剤はどこにでもある商品ではありません。担い手不足の養蚕業から作られ、しかも繭は障害者の方が真心を込めて作っている、というストーリーがあるのです。市販されているものに社名やロゴを入れただけのノベルティとは、まったく異なります。当社はこのストーリーと共に、派遣スタッフの方や法人のお客様に入浴剤をお配りできます。いわば「障害者雇用プロダクト」であるノベルティを通じ「感動」も伝えられるのです。

繭工房開設後、2018年には横須賀市と包括連携協定を締結して本格的な農福連携に踏み出す「よこすか・みうら岬工房」を、2019年には前橋市にインテリア用ドライフラワーとして人気のハーバリウムを制作する「まえばし彩工房」と「よこはま夢工房」の第2工房を、それぞれ開設しています。このうち、「まえばし彩工房」の取り組みは前橋市から産業振興・社会貢献優良企業として2020年に認定を受けました。

数値では測れない価値も大切にする

入浴剤やクッキーなど、当社は仕事の成果を何らかの形で見える化することをとても大切にしています。プロダクトを使った方から「ありがとう」の声をいただければ、またいい仕事をしようという気持ちも湧いてくるでしょう。自分の仕事が、地域や会社から必要とされ期待されているという実感も得られます。そのことで、「明日も仕事をしたい」という拘りを得られるかもしれません。

仕事の成果というと、つい数値ばかりで考えがちです。今月はどれくらいの売上を出せたかということも、とても大切なことには違いありません。数値に対する評価の制度を整えることは欠かせず、実際、当社でも給与やポジションに反映させています。

しかし、仕事の成果は決して定量的な数値にだけ現れるのではないはずです。数値だけを追い求めてしまうと、自分が何のために頑張っているかが見えなくなってしまうのではないでしょうか。また、数値を伸ばすことにやりがいを感じられる人も、限られていると思います。はっきりと優劣がついてしまうのはある意味で仕方のないことですが、50の成果を出した人が、100の成果を出した人に比べて居づらくなるという雰囲気は絶対に作ってはならないと考えています。数値に現れなくても、その人なりに頑張ったのならそれはきちんと評価する。このため、当社は定量面と定性面での評価体制を築いています。こうした取り組みが障害者の方が安心し、高い定着率につながっているのではと考えています。

少し手前味噌になるのですが、当社の強みは何かと社内で議論した際、「地域からの信頼」と「社員一人ひとりと向き合っていること」という声が挙がりました。いずれも定性的で具体的な数値に落とし込むのは困難です。ただ、それでいいのではないかと、これからも引き続きその良さを伸ばしていこうとなりました。

繰り返しになりますが、定量面を疎かにしていいというつもりはありません。特例子会社も事業体ですので、ビジネスを作り売上を伸ばす必要があります。そのため、ノベルティ以外の商品も企画していく計画です。当社が特例子会社で、かつ地方に進出して農福連携を行っているからこそ作れる商品が、世の中を沸かす可能性は十分にあり得ます。もしそうなれば、特例子会社のイメージがガラリと変わり、はたらいてみたいと考える人が増えると思います。社員はますます自分の仕事と会社に誇りを持てるようになるでしょう。

特例子会社ならではの価値を発揮し、社会に貢献できる

近年、「SDGs」(持続可能な開発目標)の取り組みがとても注目されています。SDGsは、2030年までに持続可能でよりよい世界を目指す国際目標で、地球上の「誰一人取り残さない(leave no one behind)」ことが強調されました。

多くの企業がSDGsを意識した事業展開を進める中で、特例子会社もできることはたくさんあると考えています。障害者を雇用することは社会貢献につながっていますが、さらに踏み込んだ活動ができるのではないでしょうか。一つの大きな可能性としてあるのが、当社も行っている「農福連携」です。農業はもっとも担い手の少ない産業の一つです。全国のあちこちではたらき手を求めています。その分、特例子会社が入り込みやすい側面があります。業務内容も幅広く、障害者に適した仕事も多々あります。こうした観点からも、特例子会社との相性は抜群にいいはずです。

社会的な意義も非常に大きなものがあります。地方に障害者のための雇用を創出することはもちろん、世の中からなくなってしまうかもしれない産業を自分たちの手で担えるのです。例えば、当社が富岡市で携わっている養蚕もその一つです。仕事には不慣れなところも多く、改善の余地はありますが、後世に残すために一役買っているのは間違いのないことです。持続可能を掲げるSDGsの取り組みとも合致していると考えられます。

ただし、産業を後世に残すだけでは不十分です。今の時代に合った形に改良・改善して、さらに次世代に継承していかねばなりません。雇用を守り続ける意味でも、それは非常に重要なことです。農業の担い手が少なくなっている大きな理由の一つに、収益化が難しいことが挙げられます。このため、参入しようとする企業が少なく、特例子会社が入り込む余地がありました。しかし、儲からないまま続けていけば、どこかの時点で事業の継続を見直さなければならないことになってしまいます。

そうならないよう、当社では産業をもとにした商品化を急いでいます。先ほども少しお話ししましたが、特例子会社は特例子会社ならではのストーリーを商品に入れ込むことができます。目には見ない付加価値で、商品の価値を高めることができる。「投資やイノベーションによる生産性向上とともに、就業機会の拡大や意欲・能力を存分に発揮できる環境を作ること」を掲げる働き方改革の理念とも合致します。当社が新たな事業に挑戦した結果として、人も会社も成長し、地域からは「特例子会社のおかげで、なくなりかけていた産業が続き、さらに発展させることができた」と感謝されれば、これ以上のことはありません。

尊敬される企業を目指す

これまでご紹介させていただいたように、当社は特例子会社として、積極的な展開をしています。特例子会社は第一義の役割として法定雇用率の達成があります。それもただ数合わせで採用を進めるのではなく、「はたきたくてもはたらけない人に仕事を紹介する」という、人材ビジネスの理念に則り、社会性や必然性を重視しながら地方や農業に進出したのはお伝えした通りです。

事業を作り雇用を創出することは、会社として果たすべき大きな役割です。事業・雇用を創造するに当たり、特例子会社は障害者の方の強みを理解し、事業でどのように活かせるか、成長機会を持ってもらえるか、ということを熟考する必要があります。うまくマッチすれば、期待以上の成果を生み出してもらえます。

会社としては同時に、事業を継続させることも重要な責務で、大きな社会的使命です。メディアを沸かすような取り組みをしても、事業をすぐに閉じてしまうのでは何の意味もありませんし、無責任だと言わざるを得ません。事業を作り人材を採用したなら、そこに雇用した責任が生まれます。この会社とこの仕事は明日も明後日もある、明日も明後日も雇用が続くという思いが、安心感につながります。

障害者や地方はどうしても雇用が不安定になりがちです。だからこそ、雇用の安心はますます大事になるのではないでしょうか。特にここ最近は新型コロナウィルスの問題が生じています。次に何が起こるかは本当に予測不能で、緊急事態に対応するためにビジネススキルを磨いていかねばならないことを再確認しています。

最後に一つ。SDGsや働き方改革など、企業を取り巻く環境は大きく変化し、さまざまなことが求められています。当社でもそれらに合わせた取り組みを行っていますが、根本的にもっとも大切なのは、「尊敬される企業」であることだと思っています。尊敬される企業でなければ、誰からも支持されず、ついてきてくれる社員もいないでしょう。今私たちの手がけていることは尊敬されることなのか、尊敬に値する言動を取れているのか。このことを常に顧みながら、今後も活動を展開していければと思っています。

おかげさまで、当社は来年30周年の節目を迎えます。当社の社名のパーソルサンクスの「パーソル」は「人(PERSON)は成長を通じて社会の課題を解決(SOLUTION)する」という意味が込められています。「パーソル」と当社の活動を照らし合わせると、体現できているところが多々あり、グループにもいい意味で影響力を発揮できていると自負しています。これからも鋭意努力して、時勢に合った事業を作り、変化・改善・挑戦を続けながら、継続を図っていきます。

※所属・役職は取材当時のものです