障害者雇用における働き方“変革”が企業全体にもたらす影響と未来について、2回にわたって海外の傾向や日本の現状を踏まえて紹介します。第2回の今回は、障害者の働く価値を上げていくための具体的な取組みと、企業全体の「働き方改革」にもたらす影響と可能性、企業が考えておくべきポイントについてお話します。

株式会社野村総合研究所
コンサルティング事業本部 社会システムコンサルティング部 
プリンシパル・上級研究員 水之浦 啓介

2001年野村総合研究所入社。社会システムとしての人材、障がい・高齢者・外国人雇用、人事制度改革支援などの調査研究を専門に行っている。論文に「企業価値を高める障がい者雇用のあり方」、「障がい者雇用から学ぶ、働き方改革へのヒント」など。経済同友会 年次セミナー2018パネリスト。

目次

企業の障害者への「期待」

日本では法定雇用率を伴う義務から始まった障害者雇用ですが、実際に雇用が進む現場では、「働き続けてくれさえすればいい」というところから踏み出し「戦力になってほしい」という期待が高まっています。

私たちは昨年(2018年)、上場企業(114社)と特例子会社(197社)を対象にした『障害者雇用及び特例子会社の経営に関する実態調査、障害者雇用に関する実態調査』でアンケートを行いました。こちらは2015年から毎年実施している調査です。
その中で、障害者従業員が現在担当している業務について聞くと、特例子会社では「事務補助(79%)」「清掃、管理(50%)」「機械・食品等の製造(24%)」、上場企業は「事務補助(67%)」「情報システム(25%)」「機械・食品等の製造(24%)」の順に多く、全体として「事務補助」の占める割合がかなり高いことが分かりました。業務内容や役割として多かったのは、障害種にかかわらず「標準化・マニュアル化された業務」「複数人で分担して行う業務」でした。

一方で注目すべき点は「従事してほしいが、従事している従業員はいない業務」です。身体障害者の場合は「管理職」、知的障害者は「業務上ほかの従業員に指示を出す・相談に乗る役割」、精神障害者は「高度な専門知識やスキルが必要となる業務」「交渉や企画立案等、状況に応じた適切な判断・意思決定が求められる業務」「新たに取り組む業務等、手順が標準化されていない業務」「管理職」などが高い割合でした。

働き方改革のモデルケース

業務拡大や仕事の質の向上を含め「障害者の働く価値を高めたい」と考えるとき、新しい技術革新が大いに役立つと考えられます。

最も活用しやすいのがITです。すでに8割以上の日本企業で活用され、テレビ電話会議やテレワークなどを駆使して従業員の働き方を変える動きも目立ってきています。従業員の仕事の効率を向上させるのは当然ですが、障害のある人も新たに業務に参加できる可能性があります。

前出の企業アンケートで、障害者雇用の現場における「IT活用についての期待と不安」についてたずねたところ、期待のほうがはるかに大きいことが分かりました。具体的には「業務効率の向上や質の向上」(特例67%・上場55%)や「新しい職域の拡大」(特例50%・上場42%)で、「情報漏洩や誤作動のリスク」「障害者の業務がITにとってかわられる」「ITを活用できる人とできない人で格差が生じる」という不安(20%前後)をはるかに上回っていました。

いくつかの企業では、障害者の従業員から優先的にテレワークを導入してもらいながら課題や効果・実績を確認し、一般従業員への導入方法について検討しています。最初から一斉導入するのは現場のリスクや理解も含めてハードルが高いけれども、障害のある人に限った試験的な取組みから始めると実施しやすいのです。こうしてみると「障害者の雇用が、働き方改革の最先端を走るモデルケースになる」可能性もあるわけです。

企業や社会の中でIT技術が広がることで、仕事として障害者の能力を生かせる機会も広がってくるでしょう。例えば動画の分析や監視などは、集中力にたけた知的障害のある方や、視覚に集中できる聴覚障害のある人は非常に能力が高いと言われています。精神障害や発達障害のある人の中にはプログラミングなどの専門分野で秀でた方が少なくありません。従業員の長期的な訓練や特性を生かす見極め、リスク管理を含めた細やかな支援が必要ですが、やみくもに新技術を恐れるのではなく、いかに賢く使いこなすかという発想で臨んでいただきたいと思います。

テレワークの広がり

IT技術がもたらした最も変革的な働き方は、やはり在宅・遠隔地勤務ではないかと思います。テレワークやウェブ会議ツールによって、これまで外出できなかった、近くに勤務できる企業がなかったというような障害者が労働市場に出ていけます。

近年はテレワークを活用して地方の障害者を雇用するケースも増えています。「遠隔地だとトラブルが発生しても即座に対応できないのでは」という不安を抱く企業もあるかもしれませんが、地元の支援機関などと連携することで巡回確認を含む就労支援を得る方法もあります。

また複数の企業が手を組んで業務を請負うことで障害者雇用の幅や職域が拡大したような事例もあります。2013年に設立された「えひめICTチャレンジド事業組合」は、障害者が働く事業所10数カ所が窓口をひとつにし、データ入力からWeb制作・システム開発まで15種以上の業務を一括受注しています。類似の取り組みの萌芽事例は全国にも他にもありますが、とくに愛媛では積極的に取り組んでいるようです。この取り組みについては、例えば、いくつかの企業・事業所の業務のキャパシティなどをリアルタイムで一括表示するシステムがあれば、大型業務を請け負って自動的に割り振ることも可能になり、さらに効率的にできるだけでなく、多様な仕事が受注できるはずです。こうした業務管理システムやテレワークの活用が進めば、さまざまなビジネスモデルを構築できるでしょう。

新技術が障害者雇用を変える

障害者雇用においては、日進月歩の新技術によって「新たな人材、新たな業務」が生まれる可能性がどんどん広がっています。

たとえば国が導入拡大を進める電子マネー決済システムは、現金を扱うのが困難な知的障害者の方たちにとって店舗やカフェでの決済業務を可能にします。すでに導入している企業も多い「SPIS」のような健康管理システムツールは、現場で障害者従業員のメンタルを支える管理職らのマネジメント対応を支援しています。

また、実用化に向けて開発中の例では、わずかな光を増幅させて物体を認知できるメガネは、弱視の方の職場での業務内容を大幅に広げます。リアルタイムで作業マニュアルが表示されるウェアラブル端末は、複雑な業務工程を覚えたり確認したりしなくてもスムーズに作業が続行できます。

職場の工夫がイノベーションに

職場でハンデを持った人のために工夫・開発されたものが、結果としてハンデのない従業員や一般人にとっても有用になるケースもあります。障害者雇用の取組みが、企業のイノベーションにつながるきっかけになるのです。

例えばよく知られている「UDトーク」は、もともと聴覚障害者のために開発されたツールですが、今では議事録の効率的な作成として広く一般活用されています。ほかにも、工場で働く障害者のために改良されたツールが安全で使いやすいことが分かり世界中の工場ラインで使われるようになったとか、知的障害者の方があわてず落ち着いて業務ができるよう簡素化・統一化された業務フローが、実は一般社員の業務効率化にも役立ったという例も少なくありません。

これは「リバース・イノベーション」という考え方にも通じます。ある製品を途上国でもフィットするよう機能をそぎ落としたり、過酷な環境下で稼働できるよう開発したりした製品が、実は先進国でも「使いやすい」などと受け入れられる。効率の悪い環境で工夫された機器やシステムが、実は生産性を高める斬新な技術や画期的なアイデアを生む土壌になるわけです。

世界ではいまスタートアップ企業を中心に、障害者向けの技術・商品開発もどんどん進んでいます。点字による腕時計や学習障害児向けの教育アプリ、薬の飲み忘れを知らせるアラームなど、国内外の新しい技術や製品に対する“感度”も上げていく必要があるでしょう。

「才能・時間の組み合わせ」

かつての日本企業は、「いつでも、どんな仕事でも引き受けます」という企業風土が強く、またそれが可能な労働人口に恵まれていたのは確かです。しかし近年は慢性的な人手不足とともに、さまざまな事情で多様な働き方を求める人たちも増えています。障害者だけでなく、病気をした人や子育て・介護などで仕事との両立を迫られる人たちにとって、働く時間・内容にどうしても制限ができてしまいます。だからこそ「働き方改革」がクローズアップされているわけです。

日本では今後「さまざまな能力を持つ人が、それぞれ提供できる時間や業務を持ち寄る」なかで、限られた人材をみんなで生かしていく方向に進んでいくことになるでしょう。人材と仕事をいかに最適に組み合わせ、最大の利益を生み出していくか。こうした「才能と時間の組み合わせ」を中心とするマネジメントの転換期が来るはずです。逆に言うと、今までのようなマネジメント手法を続けていては経営が立ちゆかなくなるかもしれません。

障害者雇用の取組みというのは、この新しい働き方マネジメントのモデルケースなのです。「職場に常勤できない」「苦手な部分・やれない業務もある」「特化した能力がある」といった障害者の働き方をうまくマネジメントできれば、一般雇用の場で働き方改革が進み、多様な人が混在するような職場環境でも、無理なくマネジメントしていけるはずです。
障害者雇用の現場にこそ、将来的に会社の幹部になっていくような人を送り込んでマネジメントを経験させるべきだと私は思っています。ひと昔前にサクセッション・プラン(Succession Plan:後継者育成計画)というのが流行りましたが、あの発想で、「ダイバーシティをマネジメントできる」人材を早い段階で育てる場が必要です。

最後に、私が米国で耳にした興味深い話を紹介します。大手のSNS企業のある管理職が、こんなふうにこぼしていたそうです。「職場のマネジャーとして頭が痛いのは、障害者よりも喫煙者だ。彼らは日中に何回でもタバコ休憩をとる。実際、彼らよりも障害のある従業員のほうがよっぽど真面目に生産性のある仕事をしている。求職者にこの2人がいたら、私は絶対に喫煙しない障害者のほうを採用するよ」と。喫煙する全ての人が、ということでも無いでしょうが、冷静に生産性を検討したら、業務内容によってはこのような判断を下す管理職がいるのかもしれませんね。

ひょっとしたら日本企業の経営幹部からも、こんなセリフが聞こえてくる日が遠からず来るかもしれません。