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厚生労働省が6月25日に発表した「令和2年度 障害者の職業紹介状況等」によると、2020年度のハローワークを通じた障害者の就職件数は前年度から12.9%減少となる89,840件で、リーマンショックが起こった2008年度以来、12年ぶりに減少に転じました。
新規求職申込件数は211,926件(対前年度比5.1%減)で、1999年度以来、21年ぶりの減少。就職率は42.4%(同比3.8ポイント減)という結果でした。

障害別の就職状況 身体、精神障害者の就職件数が大幅減少

障害別の新規求職申込件数を見ると、精神障害者は対前年度比11.3%減となる95,385件で、減少率が一番高くなっています。身体障害者は対前年度比7.0%減の57,691件、知的障害者は対前年度比6.9%減の34,300件と、減少率は同程度でした。また、障害別の就職件数については、特に身体障害者と精神障害者で大幅に減少していることがわかります。身体障害者の就職件数は対前年度比21.4%減となる20,025件、精神障害者の就職件数は対前年度比18.1%減となる40,624件でした。

障害別の新規求職申込件数と就職件数(過去3年間の推移)

障害種別 2020年度 2019年度 2018年度
件数(件)
(前年度比(%))
件数(件)
(前年度比(%))
件数(件)
(前年度比(%))
新規求職
申込件数
身体障害者 57,691
(-7.0)
62,024
(1.3)
61,218
(1.1)
知的障害者 34,300
(-6.9)
36,853
(2.9)
35,830
(0.2)
精神障害者 95,385
(-11.3)
107,495
(6.1)
101,333
(8.1)
就職件数 身体障害者 20,025
( -21.4)
25,484
(-5.1)
26,841
(0.3)
知的障害者 19,801
(-9.6)
21,899
(-1.5)
22,234
(5.9)
精神障害者 40,624
(-18.1)
49,612
(3.3)
48,040
(6.6)

(出典:厚生労働省「平成30年~令和2年 ハローワークを通じた障害者の職業紹介状況」)

産業別ではサービス業などで大幅に減少

全産業における障害者専用求人数の月別の状況を見ると、3月を除くすべての月で前年度を下回っています。前年度と比較して最も求人数が低下したのは8月でした(-44.4%)。
産業別の就職件数では、「農林漁業」を除くすべての業種で減少する結果となりました。「宿泊業・飲食サービス業」は対前年度比31.7%減、「生活関連サービス業・娯楽業」は対前年度比31.2%減など、サービス業での減少幅が高いのが特徴です。

産業別の就職件数(過去3年間の推移)

産業 2020年度 2019年度 2018年度
件数(件)
(前年度比(%))
件数(件)
(前年度比(%))
件数(件)
(前年度比(%))
農林漁業 1,253
(21.1%)
1,035
(-10.1%)
1,151
(-4.4%)
鉱業、採石業、
砂利採取業
23
(-14.8%)
27
(-10%)
30
(30.4%)
建設業 2,830
(-0.7%)
2,850
(5.6%)
2,700
(0.2%)
製造業 10,357
(-22.8%)
13,148
(-7.5%)
14,510
(6.7%)
電気・ガス・
熱供給・水道業
91
(-27.2%)
125
(5%)
119
(0.8%)
情報通信業 1,319
(-27.8%)
1,828
(2%)
1,792
(17%)
運輸業、郵便業 3,798
(-19.7%)
4,732
(0.1%)
4,727
(6.8%)
卸売業、小売業 10,515
(-14.9%)
12,357
(-2%)
12,607
(1.6%)
金融業、保険業 935
(-21.2%)
1,187
(-8.9%)
1,303
(3%)
不動産業、
物品賃貸業
878
(-24%)
1,156
(0.1%)
1,155
(10.2%)
学術研究、
専門・技術サービス業
1,826
(-8.6%)
1,997
(0.5%)
1,987
(4.4%)
宿泊業、
飲食サービス業
2,936
(-31.7%)
4,296
(1%)
4,252
(2.3%)
生活関連サービス業、
娯楽業
1,627
(-31.2%)
2,365
(-6.7%)
2,535
(3.4%)
教育、学習支援業 2,260
(-6.8%)
2,426
(17.9%)
2,058
(23.2%)
医療、福祉 34,417
(-3.7%)
35,744
(0.6%)
35,541
(-0.1%)
複合サービス業 672
(-18.8%)
828
(-22%)
1,061
(1.5%)
サービス業 9,213
(-12.5%)
10,524
(-3.2%)
10,868
(5.6%)
公務・その他 4,890
(-22.2%)
6,268
(59.8%)
3,922
(62.4%)

(出典:厚生労働省「平成30年~令和2年 ハローワークを通じた障害者の職業紹介状況」)

障害者の解雇者数も増加

障害者の解雇者数は2,191人で、2019年度から5.6%増加しています。月別では、200人以上の解雇者が発生した月が計6回(2020年5月、6月、7月、8月、2021年2月、3月)あります。解雇理由は、事業縮小が1,172人(53.5%)、事業廃止が853人(38.9%)などとなっています。

障害者の解雇数 (過去3年間の推移)

障害者の
解雇者数
障害種別
身体
障害者
知的
障害者
精神
障害者
2018
年度
1,890 782 607 591
2019
年度
2,074 844 636 594
2020
年度
2,191 951 641 599

(出典:厚生労働省「平成30年~令和2年 ハローワークを通じた障害者の職業紹介状況」)

厚生労働省は今回の結果について、新型コロナウイルス感染症拡大の影響もあり、障害者が比較的応募しやすい業種とされる「製造業」「宿泊業」「飲食サービス業」「卸売業」「小売業」などの求人数が減少したと指摘。併せて、求職者の就職活動が抑制されたことが、就職件数の減少につながったと分析しています。

考察:障害者雇用市場傾向を踏まえた、障害者採用拡大のヒント

障害者の就職は新型コロナ感染拡大の影響を受け減少する結果となりましたが、障害者専用求人数は2021年3月にようやく前年度を上回りました。産業により雇用への影響度合いは異なるものの、現在では多くの企業が採用活動を再開しています。
障害者雇用の傾向を基に、これからの障害者採用拡大のポイントについて考察します。

雇用率は今後も上昇、採用対象を広げた雇用拡大が必要

民間企業の法定雇用率は2021年3月より2.3%に引き上げられ、今後も段階的に上昇する見込みです。企業は、これまで採用してこなかった障害者を採用対象に広げ、雇用拡大を図る必要があるでしょう。
障害者の就職件数は全ての障害区分で減少しているものの、件数としては精神障害が最も高くなっています。また「令和2年 障害者雇用状況の集計結果」によると、雇用されている障害者のうち、精神障害者の伸び率が最も高くなっています(前年比15.9%増の78,091.5人)。これまで雇用の中心となってきた身体障害者に変わり、精神障害や発達障害者の雇用が今後増加すると見られています。一方、身体障害者の多くは病気や事故などによる後天性であるため、新規の労働者として障害者労働市場に現れる数は今後も限られると予想されます。
法定雇用率達成のための採用拡大や、戦力としての障害者活躍のためには、労働市場の中心となる精神・発達障害の採用、雇入れを一層進めていくことが求められるでしょう。

障害者雇用状況の集計結果については以下の記事をご覧ください

求める人材要件を整理し、採用対象の拡大可能性を検討する

法定雇用率の上昇に伴い、企業はさらなる障害者採用と定着促進が求められます。採用拡大を図るためには、まず自社の障害者雇用への取り組みを再整理してみると良いでしょう。
既存の採用ターゲットはもちろん、新たに採用対象を広げる場合は特に、どのような人材を採用すべきかの「人材要件」を明確にしておくことが重要です。自社の障害者雇用の目的や期待する役割、その役割を発揮する場としての配属先や業務の種類・レベルを精査しつつ、その業務に求められる人材要件を明確化します。人材要件とは、業務知識や経験などのスキル面に留まらず、はたらく意欲や障害受容、自社が提供可能な配慮で活躍できるか、なども考慮して設定する必要があります。

定着・活躍のための人材戦略

採用後の障害者の定着・活躍とは、「障害者本人が自覚する、活躍しているという感触」と「企業からの評価」が釣り合っている状態と言えます。そのための人材戦略として、仕事の成果によって企業活動に貢献するためのマネジメントや評価制度、人材開発・育成を整備する必要があるでしょう。マネジメントにおいては、「別の障害を発症した」「服薬で安定した」などの障害の変化や仕事への意識、就業状態の変化に気づき、対処できることが重要です。目標や成果に応じた適切な評価を行える制度や、成長を促す教育・育成の機会を用意し、はたらくモチベーションを維持することが求められます。

既存の取り組みとは別の方法を検討する

障害者雇用の拡大のためには、従来の職域や雇入部署、人事制度とは別の方法で雇用を進めることも有効です。一般部署で身体障害者を中心に雇用を進めていた企業の中には、事務センターの設置や特例子会社による「集合配置型」によって、精神や発達障害など、これまで採用対象としていなかった障害者の採用を進める企業も見られます。
また、テレワークにより在宅勤務制度が導入されたことで、地方に住む障害者を完全在宅で雇用する例も増えてきています。また、業務経験のある中高年層や、新卒の障害者採用に取り組む企業も見られます。
従来の雇用戦略は継続しつつ、別の手法による雇用拡大可能性について検討してみても良いでしょう。