近年、企業の社会的責任や、企業の持続的成長のためのDI&E(ダイバーシティ、インクルージョン&イクオリティ)促進の重要性が高まっています。
日本財団では、2019年、ビジネスにおける障害者インクルージョン促進を目指して設立された「The Valuable 500」と連携し、障害者がより活躍できる土壌形成の支援活動を展開しているほか、障害者の就労を支援する「日本財団はたらく障害者サポートプロジェクト」を推進しています。
そこで今回は「これからの障害者雇用に求められるインクルージョンのあり方」をテーマに、日本財団の活動を通じて、企業の障害者雇用をめぐる動きや取り巻く課題、インクルージョン実現に向けて必要なことについて考えます。

日本財団 特定事業部
インクルージョン推進チーム リーダー
内山 英里子

1990年、東京都生まれ。早稲田大学法学部を卒業後、同大学政治学研究科にて政治学の修士号を取得。2016年に日本財団に入会し、子供の社会的養護事業および東南アジア地域を中心とした海外の障害者事業を担当。現在はThe Valuable 500との連携等、障害とビジネスに関連した事業にも携わる。

日本財団 公益事業部
国内事業開発チーム シニアオフィサー
竹村 利道

1964年、高知県高知市生まれ。社会福祉を専攻後、医療ソーシャルワーカーなどを経て特定非営利活動法人ワークスみらい高知を起業。現在は、日本財団国内事業開発チーム シニアオフィサーとして「日本財団はたらく障害者サポートプロジェクト」を担当する。

目次

ビジネスにおける障害者インクルージョンを促進する「The Valuable 500」と連携

LAB: 日本財団が携わる「The Valuable 500」の取り組みについて教えてください。

内山さん: 2019年の世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)で発足した「The Valuable 500」(V500)は、障害者インクルージョンを目指す世界的規模の企業ネットワーク組織です。これは障害者の雇用をはじめ、障害のある顧客を対象とした製品・サービスの開発等、障害者をビジネスにインクルードしていくことが企業にとってメリットがあるという経済面を重視した取り組みとなっています。

日本財団も、V500のGlobal Impact Partner(グローバル・インパクト・パートナー)として国際的な連携を始めました。これには理由があります。

もともと日本財団は1962年の設立以来、日本国内だけでなく世界各国でさまざまな障害者支援事業に取組んできました。1990年代からは、社会を自分たちの手で変えていける「当事者リーダーの育成」を大きな目標に掲げ、東南アジア地域を中心に障害当事者への高等教育支援などに力を入れてきました。結果として3000人超のリーダーを輩出してきましたが、その一方、障害が理由で希望職種に就けない、就職しても続けられなくなるといった実情が少なからず確認されたのです。私たちは「これまでの障害者への直接的な支援や政府・国連など公的機関への働きかけだけでは社会は変えられないのではないか、やはり社会の多数派であるビジネスと連携して企業を変えていく必要がある」という思いに至りました。

そうして国内でV500加盟を働きかけた結果、今年5月に達した世界500社のうち53社が日本企業となりました。これはイギリスに続いて2番目の多さです。

LAB: 日本の53社がV500に加盟申請したのは、どんな理由が挙げられるのでしょうか。

内山さん: やはりV500がダボス会議を機に発足したように、グローバルな視点が欠かせない大手企業にとっては、SDGsや障害者雇用をめぐる世界的な流れにしっかり乗っていかなければという高い意識があったと思います。

V500創設者のキャロライン・ケイシー氏は視覚障害者でもありますが、彼女の熱いパッションに共感して、ポール・ポルマン氏(元ユニリーバ会長、国連グローバルコンパクト副代表)がV500代表に就任し、ヴァージングループのリチャード・ブランソン会長、アクセンチュアのジュリー・スウィートCEOら著名なビジネスリーダーがサポート役に回ったことも、多くの企業に影響を及ぼしたはずです。

日本企業の現場サイドでいうと、SDGsやダイバーシティの潮流の中で、障害者雇用の取組みが埋もれがちという課題意識もあったように思います。
例えば投資面などで注目されるESG(環境・社会・企業統治)のSにおいては、労働環境の改善や人権配慮、地域社会への貢献に向けた取り組みが、企業の持続的成長につながるという考え方が広がっています。このうちジェンダーや人種といった分野では、日本は他国に比べ力を発揮しにくい面があり、むしろ障害者インクルージョンこそESG経営に生かしていける部分があると、企業の担当者も期待しているようです。

企業トップが障害者雇用にコミットすることが条件

LAB: V500の加盟条件が、CEO(代表者)自身による署名というのも目を引きます。

内山さん: これはケイシー氏に「ビジネスリーダー自身が企業文化をつくり、トップダウンの仕組みでなければ社会は変えられない」という強い思いがあったからですね。加盟企業はコミットメント文書も出すことになっていますが、日本企業は、欧米などと比べてかなり詳細に、現在の取組みや今後の方針を記しています。

日本の加盟企業には、すでに先駆的な取組みを始めているところも、これから始めようというところもあります。私たちは公式ブログ「日本財団ジャーナル」の特集記事で、「障害とビジネスの新しい関係」をテーマに障害者インクルージョンに積極的に取り組む日本企業の事例を紹介し、英訳版はV500本部と共有しています。取材のインタビュアーは、障害当事者です。昨年、さまざまな障害のある当事者が参加したワーキンググループを立ち上げたのですが、メンバーから「企業に話を聞きたい」という声が上がったのがきっかけです。当事者目線で企業の課題を掘り下げて聞いてくれるので、とても有意義な内容になっています。

LAB: 今後国内では、V500に関してどのような展開が予想されますか。

内山さん: 現在V500では、加盟企業が参加するデジタルプラットフォームを作成中ですが、その中に日本企業のコミュニティをつくり、情報共有や意見交換をしながら国内の障害者雇用を促進していく予定です。

同時に、国際的な枠組みにおける日本企業のプレゼンスも高めていきたいですね。V500では、障害者インクルージョンのための国際的な指標づくりも進めていますが、私たちは、日本企業が加盟している利点を生かし、例えば特例子会社といった日本らしい障害者雇用の価値も反映していけるよう働きかけていきたいと思っています。

今年5月に500社達成のプレスリリースを出した後、多数の国内企業から「今から入りたい」との相談を受けました。私たちは、今回加盟から漏れた企業に対しても情報提供をしながら、国内での新たな仕組みづくりや活動も検討していくつもりです。今後は、高等教育機関や障害者団体と連携した事業も展開できるのではないかと考えています。

障害者を支援する福祉就労業界が抱える課題

LAB: こうした国際的な取組みの一方で日本財団は、国内の障害者就労を支援する「はたらく障害者サポートプロジェクト」を2015年に立ち上げています。目的や背景について教えてください。

竹村さん: 私は以前、日本財団からサポートを受け、障害者就労移行事業所やA型事業所を高知で立ち上げ、500人ほどを社会に送り出してきました。

日本国内の福祉就労施設ではたらく障害者の平均工賃は月1万6000円強ほどしかなく、計30万人への工賃支払い総額は約350億円です。一方、施設の運営事業者の経費はその約20倍の7000億円にも上っており、公費から出されています。月1万6000円を障害者に払い10数万円の報酬をもらって運営できるために、本来の就労に結びつかないまま結果として障害者を通わせるだけになっている事業所は、決して少なくありません。

こうした福祉就労業界の現状を変えるために「はたらく障害者サポートプロジェクト」(通称:はたサポ)を立ち上げました。プロジェクトの主なテーマは「福祉就労事業者に自立してもらうこと」です。

年1回、1500人ほどが集まる「就労支援フォーラムNIPPON」を開催していますが、私はいつも「障害者が自立する前に、事業者側が自立しなくてはならない」と訴えています。利用者に月1万6000円しか払えないのなら障害年金に回したほうがいい。福祉的な就労だけでは、障害者はいつまでも社会的に自立できません。

必要なのは、障害にかかわらずチャンスを与えられる職場環境です。例えば私が立ち上げた事業所では、カフェやバルを運営しているのですが、精神障害のある人も接客に従事しています。よく「精神障害のある人は接客に向かないのでは?」と聞かれますが、お客さまからは「マニュアルじゃない接客に、かえって心がなごむ」と好評です。
また、半身不随の障害のある人は、本人の希望でワゴンなどを使わず、お盆を傾けながら運んでいますが、店では一番人気です。
お店の向いにある有名チェーン店に負けないぐらい賑わっており、きちんと利益を出しているので、最低賃金以上の給料を支払うことができています。

1965年に中村裕博士がオムロンやホンダなどの大企業と提携して設立された「太陽の家」では「No Charity, but a Chance!(保護より機会を)」という理念を掲げていますが、50年以上を経た現在、国内はどこまで変化したのかと言えば、まだ道半ばではないでしょうか。

なぜ企業の障害者雇用は「法的義務」や「コスト」に留まるのか

LAB: 企業側が障害者雇用を進める上で、取り巻く課題は何だと思いますか。

竹村さん: 企業側の姿勢として、私が忘れられない言葉があります。ある企業の社長の口から出た「法定雇用率がなかったら、そもそも(障害者雇用は)やらないですね」というものです。

現実として、この言葉に当てはまる企業がほとんどかもしれません。それほど企業にとって障害者雇用は、コストになっているからです。確かに戦力として雇用している企業もありますが、二極化しています。それも1:99といった、偏った二極化ではないか。1%の企業は、特例子会社だとしても「この人たちがいないと企業が成り立たない」というぐらい経営を支えている状況です。

最近は、企業の雇用代行を手がける業者も目立ってきています。例えば雇用率未達に悩む企業に「農作業する障害者に社名入りのビブスを着てもらえば達成できます」と提案します。障害者に賃金を払う一方、企業から支援代として月額十数万円をもらうのですね。それでも、その業務が生産性を伴い、労働対価として企業から給料が支払われているならまだ良いのですが、実際は「居場所」でしかないような職場も少なくないと聞きます。これでははたらく本人も、雇用主から戦力だと思われていないのだとしたら、労働意欲を失って辞めてしまいかねません。

ただ私たちは、こうした雇用代行業者を悪いとばかり言っているわけにもいきません。彼らは彼らでビジネスとして考えたのだし、社会が求めていることなのかもしれないと思ったとき、「企業の責任として雇用すべし」という姿勢で訴え続けても、企業は疲弊するばかりだと気づきます。つまり、本当の意味で企業が障害者を戦力として雇用し、多様性のある企業文化・組織づくりを進めていくには、企業に雇用を強いるだけでなく、十分な応援体制を構築することも必要になってくるのです。

企業が障害者人材を戦力化するため環境を、協力して創っていく

LAB: 障害者人材の戦力化のために、どのような応援体制が考えられますか。

竹村さん: いま私たちが構想しているのが、就労支援移行事業サービスのブラッシュアップ、そして「再トレーニングセンター」と「トレードセンター」というアイデアです。
まずは就労移行支援事業所に、障害者雇用を進める企業から社員の方を派遣してもらいます。生活習慣等の基礎支援は事業所の職員が担当しますが、業務や就業に関する訓練は企業が座学段階から参画し、現場実習で指導する。これによって、企業の本来の業務に必要な人材を直接育てることができる。

一方、すでに就業しているが戦力化できていない人材は、再トレーニングセンターで半年から1年ほどお預かりし、その企業にとって役立つよう再育成して職場に戻す。就労移行支援事業所でやればいいと言われるかもしれませんが、そのためには一度、雇用形態を切らないといけません。国費を使わず、第三者の機関でしっかり責任を持ってトレーニングし、企業のニーズに応える人材として戻す仕組みです。

再トレーニングしても同じ職場に返すことや社内の配置転換が難しい場合もあるでしょう。そういうときは本人の意向を確認した上で、トレードセンターを通した企業間トレードによって心身ともにリセットしてもらいます。スムーズな人事交流によって、本人にも企業にもプラスになるケースが出てくるはずです。

様々なノウハウや知見を集め、こうした拠点を全国各地につくりたいと考えており、実現可能性を議論していきたいと思っています。

LAB: 障害者人材の戦力化には、企業の現場でも視点の転換が求められそうですね。

竹村さん: そうですね。例えば、知的障害を数多く雇用してきた大手企業は、知的障害に対するイメージが出来上がってしまい、彼らの可能性を信じない仕事の与え方をする傾向があります。事故やトラブルが起こらないように、シンプルかつ安全な軽作業ですね。
本来の企業経営というのはコストを下げて利益を生み出すことなのに、障害者雇用に関してはわざわざ無駄を復活させている。そこをもっと根本的に見直して、彼らをどう戦力化するのかを考えてほしいのです。

戦力化は、どの企業でもできます。ある企業では、重度の知的障害のある社員がトレーニングによって、技術職が担当していた高度な業務をこなすようになったそうです。そこが、障害者雇用のやりがいのダイナミズムですよね。さらにほかの社員の能力をどう生かすか、1から100につながっていく障害者雇用の大きな意義だと思います。

「生きることと、呼吸することは異なる」という言葉があります。生きる、つまりはたらくことでだれかの役に立っていることを体感したとき、人はもっと生きたいと思えるようになります。本来の意味ではたらくことが、生ききる力になる。それをどう育むかが大切なのです。それが障害者雇用におけるダイナミズムなのだと共感できたとき、「コンプライアンスのため」「雇用率のため」という呪縛から解放される可能性もあると思います。そして、こうした職場の光景がもっと広がれば、障害がある子供たちも、希望の持てる未来や景色が描けるようになるでしょう。

「はたらく障害者サポートプロジェクト」の目指すところとV500の方向性は同じです。それは、今までの障害者雇用の捉え方のまま「企業が一生懸命理解して変わるべき」と言い続けるのではなく、企業がこの人たちをどう戦力化していけば社会の持続可能性につながるのか、具体的なリソースを提供し、企業が「それならできるかもしれない」と思える環境を、みんなで一緒につくっていくことです。V500でも、企業の好事例を世界的に共有していくプラットフォームが機能すれば、トップダウンで一気に変わっていけるかもしれません。

障害者自身も、必要な人財となるために努力する

竹村さん: 私は、障害者自身にも努力してほしい、と強く思っています。私はよく支援現場で、障害者に「努力しないで雇用率達成のために雇ってほしいというのは違うだろう」と言っています。障害者自身が、自分なりに努力する必要性について、もっと当事者に伝えていっていいと思います。

憲法第27条第1項に「すべて国民は、勤労の権利を有し、義務を負ふ」とあるように、就労は権利であり義務です。障害の有無にかかわらず、よりよい職を求め、就学や資格取得など自分の人生を高める努力なしに、権利も義務も高度に達成することはできません。誰よりも自分自身のために「必要とされる人財となる」ことに、努力を惜しまないでほしいと願っています。