民間企業の障害者雇用が拡大する中、近年は精神・発達障害者の雇用数が急増し、今後は障害者労働市場の中心になっていくものと見られています。一方、雇用現場では、経験やノウハウが十分でないことや職域が限られているなどの課題も見られます。
野村総合研究所は2021年4月、日本国内で発達障害者人材の未活躍による経済損失額は推計2.3 兆円 にのぼると発表しました。その一方、海外では、発達障害者人材の職務適性に注目し「高度IT人材」として積極的に採用する企業が増えています。
そこで今回は、日本における発達障害者人材の活躍可能性と、活躍・戦力化への課題や改善策について、調査を担当した野村総合研究所の高田篤史さんと、当社が運営する先端 IT 特化型就労移行支援事業「Neuro Dive」で発達障害者の支援にあたる吉田の対談から考えます。

株式会社野村総合研究所
コンサルティング事業本部
ヘルスケア・サービスコンサルティング部 
高田 篤史

2017年野村総合研究所入社。主にヘルスケア・ライフサイエンス領域を中心に事業戦略立案、DX戦略、ダイバーシティ経営、公共政策提言などを担当。論文に「日本型ニューロダイバーシティマネジメントによる企業価値向上(前・後編)」「スティグマ解消による“隠さなくて良い社会”の実現を目指して」など。

パーソルチャレンジ株式会社 
コーポレート本部 経営企画部 
Neuro Dive グループ
Neuro Dive 横浜センター長
吉田 岳史

2019年入社。同年11月に先端IT特化型就労移行支援事業所「Neuro Dive」事業設立に携わる。2021年7月よりNeuro Dive横浜のセンター長として、先端IT領域を目指す発達障害者の支援を担当している。

目次

発達障害者の活用は経営戦略。職域・キャリア広がる海外企業事例

LAB: 野村総合研究所が発表されたレポートによると、海外の大手企業が続々と、発達障害者を高度IT人材として積極雇用しているようですね。

高田さん: そうですね。発達障害者人材の積極雇用の火付け役と言われているのが、発達障害人材の雇用支援を手がけるデンマークのスペシャリステルネ社です。同社は「発達障害のある人の中には、ソフトウェアエンジニアとしての卓越した能力がある人材がいる」という期待のもとに「自閉症雇用プログラム」 を開発しました。実際にソフトウェアテスター業務を任せたところ顧客からも高評価を得て、「彼らにフィットした職域や仕事を選べば、従来の障害者雇用の枠をこえて活躍できる」ことを証明しました。このイノベーションな取組みは、毎年ハーバードビジネススクールの授業でも取りあげられ、MBAを取得しに来た人たちを通して各企業に広がったようです。

同社のプログラムやノウハウを提供してもらいながら、SAPやヒューレット・パッカードエンタープライズ(HPE)、マイクロソフト、IBMなども採用に乗り出しました。JPモルガン・チェース・アンド・カンパニーではビジネス分析やパーソナルバンカーとしても雇用、フォード・モーター・カンパニー、デル、P&Gといった製造業も含め、海外大手企業における取組みと職域の広がりは、大きなインパクトを与えています。

私がインタビューしたSAPには独自プログラムもあり、長ければ半年ほどのインターン期間に職場で一緒に仕事をしながら、時間をかけて評価するそうです。 入社後は、ほかの社員と同じように配属されますが、バディといって、ちょっと気にかけてくれる同僚がいてくれます。
SAPでは、デジタル分野だけでなく人事やマーケティング、営業で活躍している方も多いのが特徴です。中には革新的なアプリを開発し、入社4年目で創業者賞を受賞するトップ社員 も出てくるなど、キャリアに幅も広いようです。

私たちがニューロ・ダイバーシティ(脳の多様性)に着目したのは、発達障害者の活躍もありますが、最終的には「障害の有無にかかわらず個々に目を向ければ、もっと多くの人たちが活躍できることに気づける」と感じたからです。

LAB: 海外の大手企業が、相次いで発達障害者雇用に乗り出した理由は何でしょうか。

高田さん: もちろん障害者雇用率が上がることもありますが、むしろ経営戦略としてのモチベーションが高いと思います。

近年、デジタル人材の取り合いが激化するなか、職場で発達障害者が働きやすい工夫をワンステップ施すことで、少しでも他社が手をつけていないプールから「わが社なら活躍させられる」というスタンスで採用する。さらにはSDGsの流れにも乗っかって、全体として戦略的に良い取組みになるということです。

外資系企業は、いつも足りない人材を取るために必要にかられて始めるケースが多いのですが、日本でも、これから需要が高くなりそうな分野で職域拡大や訓練が増えるといいですね。理想は、企業が「雇用率はとっくに達成しているけど、そもそも気にしていなかったよ」というぐらいの感覚で採用する環境です。

日本企業の発達障害者活用状況 海外との違いは何か

LAB: 日本でも発達障害者を高度なIT人材として雇用する企業が出てきています。

高田さん: レポートで紹介しているグリービジネスオペレーションズ社の場合、障害者雇用を始める際に、発達障害者について「知的能力は着を期待できる」「インターネット関連への親和性が強い」「アニメやゲームが好きという同社事業との親和性が高い」といった適性期待に着目し、集中的に雇用する体制をとった結果、特にゲーム事業では、ゲームのチェック、テストに加え、画像加工やゲームキャラクターの設定等のクリエイティブな仕事まで活躍され、「 良い発見があった」と担当者が話していました。

デジタルハーツ社も注目されています。創業者は、スペシャリステルネと同じような発想で事業を始めたそうで、発達障害がある人を含めた元引きこもりやゲーマーの社員をセキュリティ関連のプロフェッショナルに育てる実践をしています。社員のデバック能力が高く、X-BOXのバグを見つけすぎてビル・ゲイツ氏も関心を寄せたほどです。

LAB: 発達障害者人材の活躍を考える上で、海外と日本の職場環境に何か違いはありますか?

高田さん: まず、海外企業を見ていて一番感じたのは、職場で障害のある人を「分けること」を倫理的に嫌う、という風土があることです。米国などでは歴史的な差別問題などもあるからかもしれませんが、同じ職場で一緒にはたらく という感覚が、日本よりも身近なのでしょう。

これまで日本では、特例子会社や企業の一部署に支援のためのリソースを集中させ、効率的に、かつ当事者にとって手厚い職場環境をつくってきました。これはこれで優れたやり方ですが、一方、企業側には「そういう人は、そういう場所で」という考え方が根付いてしまっているところがあります。その結果、ダイバーシティによるイノベーショナルな結果や、組織の活性化を感じる機会も減ってしまい、障害者の価値や活躍の可能性について想像しにくくなるのではないかと思います。

具体的な職場環境としては、ハード面では、発達障害にサポートのある企業ではブース型のデスクを用意しているところが多いようです。発達障害の特性によっては、落ち着いて仕事に集中できる環境ですよね。日本でも最近はブース型を採用するケースが増えています。ソフト面では、海外の職場はフレキシブルな働き方が主流です。日本では少し前まで朝は一斉出勤し、何かと集まって会議をするのが普通だったと思いますが、これも苦手な人は少なくありません。コロナ禍で、テレワークや時差出勤などが導入されましたが、かえって生産性が上がったとよく聞きますから、今後は障害者雇用の現場で主流になっていくかもしれません。

必要なのは「自走力」。支援現場から見た高度IT分野での発達障害者の活躍可能性

LAB: Neuro Dive でも日本の大手企業などに人材を送り出していますが、どのように進めていますか。

吉田: 当社とコンタクトのある企業の多くは、やはり雇用率達成がベースにあります。毎年雇用率の達成に追われる一方、DXなどの進行で簡易な事務作業は人の手を必要としなくなる状況で「雇用領域の拡大が難しい」といった相談を受けます。企業も、できれば障害者に活躍してほしい気持ちがありますから、諸々の希望に応えらえるよう、人材紹介のほか新たな業務や実習の提案などもしています。

インターン期間については、海外でも半年という話が出ていましたが、現場からもよく、IT分野での能力を見極めるのは短期間では難しいと言われます。企業のリクエストは2カ月ぐらいですが、1カ月程度で見極めてもらうことが多いですね。というのも福祉制度上、無職ではないと就労移行支援サービスは受けられず、かといって無収入の人にあまり時間をかけるわけにはいかないからです。

実は今年7月、Neuro Diveの学習カリキュラムを活用したオンラインプログラム「Neuro Dive Online」を始めました。遠隔地での受講が一番の売りですが、福祉制度から切り離したプログラムなので、現在、就業中の方がはたらきながらでも学べるという点でもニーズが多いのではないかと考えています。
これまでの職域が狭まる動きが加速するなか、障害者社員のスキルアップやキャリアチェンジのための企業内研修としても、Neuro Dive Onlineのプログラムを活用していただける可能性もあるのではないかと考えています。

LAB: 高度IT分野で活躍可能性のある人は、どんな特徴があるのでしょうか。

吉田: これは誰にでも言えることかもしれませんが、自分で学習しながら必要なスキルを身に着けていける人でしょうか。私たちはこれを「自走力」という言葉で定義しています。

発達障害の特性として、一般の人とは違う枠組みの考え方でもいいので、とにかく自分の中で論理的な組み立て方のできる人が力を伸ばしている印象があります。彼らなりの思考方法で、自分に足りない部分も捉え、何を努力すべきかを考える。それができる人は企業に入っても通用するような人材になっています。

LAB: 日ごろの支援で心がけていることがあれば教えてください。

吉田: 利用者の皆さんの特性に合わせて学習の進捗等を可視化するよう心がけています。例えば、身に着けたスキルについては、学習履歴をもとに、習得した部分と足りない部分をレーダーチャートであらわすようにしています。さらにスケジュール管理やビジネスチャットなど、彼らがパフォーマンスを発揮しやすい場やツールをとり入れながら、自分で組み立てて訓練できるよう促しています。こうしたサポート内容は、受け入れ企業でも導入できるよう、高すぎないハードルにしていることも大事だと考えています。

職場環境、人事制度、業務アサイン、キャリア選択…発達障害人材活躍のポイントは

LAB: 今の日本で、発達障害人材の活躍を進める上での課題は何だと思いますか。

高田さん: 全体として、当事者がメリットを感じてカミングアウトできるような職場環境がまだまだ不十分ということでしょうか。

まずはキャリアをめぐる人事上の課題です。私たちの調査 では、ASDの診断がある人の約6割、ADHDの診断がある人の約8割が一般雇用枠で働いています。そのうち7割は職場にサポート制度もないそうです。

とはいえ手厚い支援のある特例子会社や障害者雇用枠の部署があっても、そこではたらこうと思う人が少ないのは、キャリアを伸ばせそうにないからです。同じエンジニアなのに大学の同級生と随分な差がつくなら、支援はなくても一般雇用に混じって何とか頑張ろうと思ってしまいますよね。

吉田: しかもいったん障害者枠を選んでしまうと、いくらスキルを身に着けても一般雇用側へのジョブチェンジがほぼできないのが、大きな課題です。

背景には、日本の障害者雇用におけるコスト志向もあります。多くの企業が集合雇用を導入していますが、この最大のメリットは、ファシリティやマネジメントのコストが抑えられることです。一般のIT職場への配属は、事務作業などの職場でのマネジメントに比べたら非常にコストがかかりますから。

私たちも、まずは本人がしっかり活躍して、きちんと企業に価値貢献できるところまで考えないと、人事制度を変えることもなかなか難しいのかもしれません。

高田さん: 多少凸凹があったり強み弱みが際立ったりしていても、強みだけで価値を発揮することができれば、それが専門職になるかもしれません。これまで日本企業は、総合職としていわゆる万能型を求める傾向 がありましたが、専門職として企業に価値貢献できる発達障害人材を評価する価値観や制度が必要ですよね。

吉田: むしろ尖っている部分というか、凸の素地に合わせ、企業に役立つ業務スキルをしっかり身に着けてもらえたら、業務もアサインできると思います。逆に、本人の特性がただの特徴のままだと、企業にとっては何の価値もないため、凹の部分に合わせて業務がアサインされてしまいます。

Neuro Diveでも、個人に焦点をあてて業務をアサインし、一般社員と同じような業務で活躍できる人材の育成を目指しています。これまでも、ある大手企業に一般雇用枠で採用された人がいますが、配属先は人事部署でした。いまはHR分野でデータの利活用が進んでいますが、その企業でも人事部内にIT人材が必要になり、価値を見出されました。実は、私たちが彼を紹介したときには「障害者雇用枠の待遇条件で採用すると言えば、本人から断られますよ」と伝えていました。

企業によっては人事担当者と相談し、障害者雇用枠と一般雇用枠の中間ぐらいの待遇条件を新設してもらったり、一般の人事制度の低めのグレードから始めてもらったりしています。求められるスキルと可能性を持った人材なら、企業側も柔軟に変えてくれます。
全体として、これまではクローズ就労が前提だったような一般枠に、スキルがあればオープンにしても入り込める状況が生まれつつあります。少しずつでも、こうしたポジションを含めた雇用領域が広がれば、当事者たちの働き方の選択肢が増えていくと思っています。

高田さん: キャリアの選択肢があるというのは大事ですよね。もちろん誰もが高度IT人材としてはたらけるわけじゃないでしょう。障害者雇用というと全ての障害者を救わなくちゃいけない感じになりますけど、一般の大学生も就活でいっぱい落ちます。そのあたりの感覚も含めて、うまく浸透させていくにはコツがいるかもしれません。

吉田: 障害者雇用の世界においても、競争が持ち込まれるのは当然の結果で、逆にそれがないと一般雇用と同じようにはいきません。努力して勝ち抜いた人が報われるような雇用ポジションができることが当たり前になっていけばいいですよね。

「発達障害とカミングアウトしたほうが得策」と思えるように

LAB: レポートでは、発達障害人材に活躍してもらうためには、一般雇用での支援も含め、職場のマネジメントスキルも重要だとしています。

高田さん: これについては、おそらく特例子会社がやってきたような手厚い支援とは違う答えがあるのかなと思っています。

たとえば、数年前から発達障害人材を雇用し始めたIT企業は以前から、シリコンバレー系企業では主流の、週1回の1on1を実施していました。上司とのコミュニケーション時間が多いので、「障害者雇用向けにカスタマイズした職場でもないのに案外うまくいった」と話していました。もともとマネジメントがしっかりしていたということです。一般の社員もはたらきやすい職場は、障害のある社員についてもインクルーシブなのだなと感じました。障害者雇用だからと無理にカスタマイズするよりは、一般のマネジメントのレベルが上がったぐらいの状態を目指すほうがいいのかもしれません。

海外で特にデジタル系の企業で目立っているのは、「障害にかかわらず、いろいろな人がいるんだ」という価値観で、通常のマネジメント能力にゆだねるスタンスです。部下が10人いれば十人十色なのであり、現場に対しても、その人たちのマネジメントを当たり前に求めている印象が強かったですね。

こうした「ありふれたマネジメントスキル」 を広めるためには、企業風土を変えることも大切です。グーグルが2012年に発表した研究 では、効果的なチームには心理的安全性の確保が重要だと結論づけていましたね。実は私たちが、発達障害と診断された人を対象に調査したところ 、一般雇用の場合は、職場で自分の発達障害のことについて誰にも伝えていない人が4割もいました。カミングアウトしない理由として多かったのは「理解してもらえないと思う」「仕事能力に不足があると思われたくない」でした。

今回は発達障害にフォーカスしていますが、障害のない方も気にかけてもらいたいことはあります。いつか「発達障害とカミングアウトしたほうが得策だ」と思えるような職場環境になったとき、ほかの社員も「僕だって大変なんだ」と言いたくなると思いますよ。それぞれ抱えているハードルをカミングアウトする。それをひっくるめて、みんなでうまくやっていくにはどうするのか。だれかれ関係なく一人ひとりにフォーカスしたマネジメントが、最終ゴールなのだと思います。

社会全体としては、特に若い世代の間で、周囲にカミングアウトするハードルが低くなりつつある気がします。ダイバーシティやLGBTへの意識が高く、そういう意味では今後、職場での心理的安全性も確保しやすくなる期待があります。先日、イーロン・マスク氏もアスペルガー症候群をカミングアウトしましたが、世の中の成功者が「それでもいいんだよ」という前向きなメッセージを発信しているのも良い流れですよね。

吉田: 日本でも今後、企業の価値というものがSDGsの尺度でもはかられるようになっていけば、その流れに障害者雇用も食い込んでいけるのではないかと思っています。

もちろん企業だけに変わってもらわなければとは思っていません。人材は育成できつつあるという実感があるので、雇用の仕方や活躍領域を広げていくなかで、企業の方たちも私たちと一緒に、挑戦していってもらえたらと願っています。