中高年層の障害者雇用 -事例から考える採用・定着のポイント

障害者雇用に取り組む企業が増える一方で、これまで雇用の中心だった身体障害者は雇用ニーズが集中し、採用活動が難しくなっています。調査によると、企業に雇用されている身体障害者の半数以上は50代以上のため、今後、身体障害者の雇用に取り組む場合は、中高年層の雇用を検討する機会が増えるでしょう。そこで今回は、人数が多く、職務能力や経験を持つ、中高年の身体障害者の雇用について、メリットや気を付けたいこと、成功のポイントを、当社が支援してきた雇用事例を踏まえて紹介します。

身体障害者の高年齢化が進む 障害者労働市場の現状と今後

民間企業における身体障害者の雇用ニーズは依然として高いものの、これまでの障害者労働市場の主役であった身体障害者は高齢化が急速に進んでいる傾向があります。

出典:平成30年 障害者雇用状況の集計結果(厚生労働省)
※2019年以降は弊社推定値

厚生労働省の統計によると、民間企業の障害者雇用数53万4769.5人のうち、身体障害者の雇用数が34万6,208.0人と最も多くなっています。精神障害の雇用が進んでいる一方で、身体障害者の雇用が積極的に行われており、引き続き需要が高いことも伺えます。
しかし、身体障害者は他の障害と比べて高齢化が進んでいます。
下の図は厚生労働省が発表した、雇用されている障害者の年齢階層別の割合です。

出典:平成30 年度 障害者雇用実態調査
(身体、知的、精神及び発達障害者を5人以上「常用労働者」として雇用している民営事業所から、無作為に抽出した約 9,200 事業所を対象に調査)

身体障害者の半数が50代以上となっています。
5年前の調査(「平成25年度障害者雇用実態調査結果」)では、40~44歳の割合が8%なのに対し、30年度の調査では10.1%にまで増えており、40歳以降の数値は全体的に高くなっていることがわかります。
身体障害者は今後も一定人口比で推移していくものの、人口減と比例して減少していくと推定されます。

身体障害者の需要は依然として高いものの、若年齢層が少なく、ニーズが集中しており採用は非常に難しくなっています。今後、身体障害者を雇用する場合は、人数の多い中高年層の雇用を検討する必要があるでしょう。

中高年層を雇用するメリットは

これまで見てきたとおり、企業が身体障害者を雇用する場合は中高年層の採用を考える必要が出てきますが、中高年層の障害者を雇用するメリットはどのようなものか、簡単にまとめました。

  1. 処遇や条件面より「はたらくこと」に重きを置いている方が多い
  2. 単調な業務・役割でも納得してはたらいてもらえる方が多い
  3. 業務経験や知識が豊富な方が多く、安定して業務をお任せできる
  4. 専門性が高い人材が埋もれており、スペシャリスト人材の採用が可能

中高年層の障害者の場合、過去の仕事や転職の経験からどのような実績を積んできたのか、その経験をどう活かせるかを、具体的に説明できる人も多い印象です。また、自身の障害の配慮に関しても「このような配慮があると働きやすい」と環境や処遇とのバランスを考えながら提案できる人がいます。任せたい仕事が明確で、即戦力として期待したいという場合、中高年層を雇用するメリットは最大限に活かされるでしょう。

中高年層を雇用する上で気を付けたいこと

中高年層の障害者を雇用する上ではメリットも多くありますが、一方で気を付けなければならないポイントもあります。一般的に次のような点が懸念点として挙げられます。

  1. 定年までの勤務年数が短い
  2. 専門職などでは、一部、希望条件が高い方もいる
  3. 通勤可能な勤務地が限定される場合がある
  4. 役割の変化を受け入れられていない方もいる

個人の障害特性や、先天性・後天性の違いによっても、気を付けなければならない点は異なります。特に、事故や病気などで後天的に障害を持つことになった場合、一般雇用の時と比較し、雇用条件などを柔軟に受け入れられないこともあるようです。それでも、例えば「前と比べて給与は高くないかもしれないが、障害への配慮は柔軟に行える」「自宅近くで勤務ができる(支店勤務など)」「定年までの勤務年数は短いが安定した戦力として貢献できる」など企業が提供する配慮や処遇、条件等とのマッチングポイントを明確にすることで、双方が納得できる雇用は十分可能です。

中高年層の障害者雇用における助成金

中高年層を雇用する際に活用できる助成金もあります。障害の特性に応じて雇用管理・雇用形態の見直し・働き方の工夫などに措置を講じる事業主に助成される「障害者雇用安定助成金(障害者職場定着支援コース)」です。

障害者雇用安定助成には、7つの措置とそれぞれの対象となる労働者が決まっていますが、その中に中高年の雇用促進・定着のために企業に対して助成される「中高年障害者の雇用継続支援」という措置があります。措置の概要と対象者は下記の通りです。

中高年障害者の雇用継続支援

【措置の概要】
中高年障害者に対して、雇用継続のために必要な職場適応の措置を行い、雇用を継続すること
【対象者】
措置の開始日の時点で 満45歳以上かつ勤続10年以上の障害者
  • ※身体・知的・精神・発達障害者、および難治性疾患または高次脳機能障害と診断された方。
  • ※申請事業主に雇用される労働者(一般被保険者等として申請事業主に連続して10年以上雇用されている者に限る)であること。
  • ※就労継続支援A型事業における利用者でないこと。
  • ※申請事業主または取締役の3親等以内の親族以外の者であること。

参照:厚生労働省 / 障害者雇用安定助成金 (障害者職場定着支援コース)

上記の措置を実施し6カ月定着させた場合に助成金は支給されます。支給対象期間は1年で、支給額は50万円~70万円です。対象となる労働者や事業主など、詳しい情報は厚生労働省の資料で確認してください。

中高年齢層の障害者への配慮

中高年層の障害者に必要な配慮について考えてみます。

下のグラフは、ハローワークが平成30年2月に、50歳以上の障害を持つ求職者を対象に行った、前職での継続雇用に求める配慮に関するアンケート結果です。

中高年障害者が前職での継続雇用に求める配慮等(全体)

出展:ハローワークにおける50歳以上の求職中の障害者に対するアンケート(平成30年2月実施)
(厚生労働省「平成30年3月30日(金)第8回 今後の障害者雇用促進制度の在り方に関する研究会」(議事次第)資料から当社にてグラフ作成)

中高年齢層の障害者が継続雇用に求める配慮としては、「職場の環境が整っていない」が最も多く、「大いにある」「ある」を含めると8割になります。働く上での環境が整っていないと答えた障害者に要望内容を聞くと、「コミュニケーションを図ってほしい」「病気や障害への理解を深めてほしい」「体調や業務スピードを踏まえた配置にしてほしい」という意見が多数挙げられました。

反対に、「勤務時間を減らしたい」に対して「全くない」「ない」と答えた障害者が多い結果になりました。勤務時間を減らすことを求める障害者は少ないということがわかります。

中高年障害者が前職での継続雇用に求める配慮等(身体障害)

出展:ハローワークにおける50歳以上の求職中の障害者に対するアンケート(平成30年2月実施)
(厚生労働省「平成30年3月30日(金)第8回 今後の障害者雇用促進制度の在り方に関する研究会」(議事次第)資料から当社にてグラフ作成)

身体障害者に関しては「仕事内容を軽易なものにしたい」と考える方が多いことがわかります。一方で「自分の能力やスキルが活かせない」と感じている人は少なく、体調への配慮ができていれば、能力やスキルを活かしながら活躍してくれる可能性は十分にあると言えるでしょう。

今度は企業側が提供している主な配慮について見てみます。この図は厚生労働省が発表した「平成25年度障害者雇用実態調査」にある、職場における障害者への配慮事項です。

職場における障害者の配慮(企業側への質問)

出展:厚生労働省「平成25年度障害者雇用実態調査」をもとに当社にて図表作成
(雇用障害者への配慮事項の有無について「ある」と回答した企業)

この調査は、中高年層の障害者に特化したものではありませんが、身体障害者に対しては、雇用管理や人事管理上の配慮、通勤や休暇、職場設備や施設などのハード面の配慮が多いことがわかります。

必要な配慮は一人ひとりの障害特性によって異なりますが、中高年層が持つスキルを最大限に活かすことを前提に考え、処遇とのバランスを見ながら配慮すること、本人の体調や就業状況によっては必要に応じて、通院や休暇、勤務時間の見直し、配置転換などの雇用管理上の配慮が必要でしょう。
また、本人だけでなく、社内や配属部署のメンバーに対する障害特性や配慮への理解を深めることも大切です。

事例紹介 中高年層の身体障害者雇用 当社キャリアアドバイザーの話から

最後に、当社がこれまでご支援してきた事例を紹介します。中高年層の障害者の特徴やはたらく意識、就職・安定定着できる方とそうでない方の違い、そして、雇用を成功させるために、企業側がおさえておくべきポイントを、当社キャリアアドバイザーの話から紹介します。

1. 中高年層の障害者の特徴は

当社は障害のある方の人材紹介サービス「dodaチャレンジ」を運営していますが、サービスに登録している身体障害者の中でも40代後半以上の中高年層の方は増えています。
障害には先天的障害と後天的障害の2つに分けられますが、中高年層の身体障害者は後天的障害であるケースが多いと言われています。

営業職や技術職など、身体を動かしながらはたらかれていた方は、障害によって自由に動けなくなったことで、今までと同じようなはたらき方ができなくなります。勤務場所や勤務時間などの配慮が必要になったという理由から転職せざるを得なくなりますが、後天的な障害の場合、自身の障害の受容ができていない方も一定数いらっしゃいます。

2. どのような業務があるのか

中高年層の身体障害者向けの業務として多いものは、庶務、事務関係の業務、営業のサポート業務や、店頭でのお客様への案内業務、コールセンターのオペ―レーター業務などがあります。配送センターでの仕分け作業や倉庫での在庫管理、バックヤードでの作業なども比較的多い業務と言えます。
また、障害を受傷する前に就業されていた同じ業界で、アドバイザーやオブザーバーとして従事される方もいます。

3. 中高年層の障害者雇用事例…就職・安定定着できた方とそうでない方の違いとは

ある50代後半の男性の方は、長年、仕事優先ではたらき続けてこられたものの、障害によって健康への意識が高まり「はたらき方の負荷を減らしたい、リハビリや通院の時間も大切にしたい。今まで通り仕事も頑張りたいが、健康を優先したいので、職位や処遇は下がっても構わない。自分のできることなら仕事は何でもやりたい」という方がいらっしゃいました。条件より「はたらくこと」自体に重きを置いて転職を考えられていたのです。
この方は前職の情報システム部での職務経験を活かし、大手メーカーの情報システム室の事務職に就職されました。企業が提示した条件や処遇、配慮にもご納得いただき、安定してはたらかれています。

反対に、ご自身の障害やはたらく変化を受け入れられず、うまくいかない方もいらっしゃいました。
長年、営業職として活躍されてこられた50代前半の男性の方は、体調を崩されて障害を受傷されたものの「給与、仕事の中身を大事にしたい」「ずっと営業職で活躍してきたので、事務職ではなく同じ営業職ではたらきたい」という希望をお持ちでした。
営業職ではなく営業をサポートする事務職の仕事に就業されましたが、その会社は主にメールやチャットツールでコミュニケーションをとっていること、若い社員が多く上長も年下の方であること、役職や立場が違っても「さん」づけで呼び合うこと、個人の裁量でフレックスや在宅勤務による働き方が認められているなど、長年勤めた以前の会社とは社風や文化が大きく異なっていました。
そうした仕事や文化の違いを受け入れることができず、周囲の年下の社員ともコミュニケーションがうまく取れなくなり、「自分はもっとできるはずなのに、できない」「悪いのは自分ではなく会社や周囲の社員」「ここでは自分が思っていたはたらき方ができる場所ではない」と思うようになってしまいました。

どのような方でも、最初は障害を受容できない、ネガティブな行動や言動が目立つ、自分や周囲に当たってしまうことがあります。しかし、時間をかけて自分を見つめなおし、ありのままを受け入れ、前向きに考えることができます。私達がご支援する際は、その方の状態をよく理解し、必要であればご自身のことを客観的に把握いただくために時間をあけることがあります。

中高年層の障害者雇用では、障害や年齢によってそれまでと同じ業務やはたらき方ができなくなり、はたらく環境、業務内容、処遇や評価が変わることになります。そのため、ご本人にこうした「変化」を受け入れられるお人柄や柔軟性があるか、そしてご本人だけでなくご家族の方も変化を理解されているかがとても重要になります。

4. 中高年層の障害者雇用…ポイントは「豊富な経験を活かす」「障害、変化への受容度を見る」「柔軟な制度」

中高年層の身体障害者は、障害が安定しており、業界や業務に関する豊富な経験や知識を持った方が多くいらっしゃいます。若年層にはない知識や経験を活かし、定型反復型だけではない専門的な業務での安定就業・活躍が期待できます。中高年層向けの職務領域を拡大させること、培った経験や能力を活かす雇用をご検討頂きたいと思います。

障害を受容されているか、お人柄や、変化に対する柔軟性をお持ちの方かを見極めることが必要と考えます。採用活動の中で、ご自身の障害について受容されているか、「はたらく」「はたらき方」に何を求めているか、お人柄と自社の社風が合っているか、業務内容や業務環境に馴染める方かを確認すると良いかと思います。あわせて、ご家族や周囲の方の理解やサポートは十分に得ているかを確認する必要もあるでしょう。

一般雇用でも、労働人口の減少や多様化が今後さらに進むと思われます。多くの企業では定年を設けており、例えば60歳を定年としている企業では55歳までの方しか採用対象に入らないケースもあるかと思います。
今後は、障害者に限らず一般の中高年者も長く安定してはたらけるよう、はたらく時間や対象となる業務、雇用形態、処遇や評価、年齢などに対する、柔軟性のある人事評価制度が必要になるかもしれません。