障害者雇用に取り組む企業の課題として「採用をしても定着しない」「人材活用が思うように進まない」という声を耳にします。一方、雇用された障害者側も、企業の処遇や評価に対する不満や不安を抱え、離職してしまうケースが後を絶ちません。
企業と障害者の間に生じるギャップ、その理由の一つに、障害者の定着と活躍に対する企業側の誤解があります。その誤解とは何か、定着と活躍に対する考え方について、紹介します。

※この記事は、2019年5月17日に行われる「日本の人事部 HRカンファレンス2019 -春-東京」にて当社が行う講演内容の一部を、先行して紹介するものです※

目次

企業が障害者の定着・活躍に取り組むべき背景

企業に就職する障害者はこの10年で増加しています。厚生労働省が2018年5月に発表した調査結果では、ハローワークを通じた障害者の就職件数は9年連続で増加、10年前と比べて約2.1倍(精神障害者は5倍以上)になりました。就職者の増加に伴い、その職域も広がっています。

出典:平成29年度 障害者の職業紹介状況(厚生労働省)より

働く障害者が増える一方、職場定着率は決して高いとは言えません。障害者を含む常用労働者全体の一年間の平均離職率が14~17%程度で推移しているのと比べ、障害者の就職1年後の定着率は身体障害者と知的障害者が6割以上、精神障害者は5割を切る状況です。
法定雇用率が上がり、多様な障害者の雇用が進むことで、企業にとって、障害者の定着・活躍が重要な課題となっているのです。

出典:障害別にみた職場定着率の推移と構成割合(2017年4月 独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構 障害者職業総合センター)

障害者が抱える不満と企業の実態

働く障害者側の、企業に対する不安や不満の声は少なくありません。厚生労働省の調査結果によると、障害者が、雇用する企業に対して、賃金や能力に応じた評価に不満を感じている様子が分かります。

一方、企業側も、定着や活躍への取り組みを重要視しているものの、雇用管理や人材活用のための育成が思うように進まず、結果として、職場定着しない、活躍させられていないという声を耳にします。

障害者の人材活用が高い状態とは、「障害者本人が自覚する、活躍しているという感触」と「企業からの評価」が釣り合っている状態を指しますが、働くにあたって不安や不満を抱える障害者と、人材活用が進まない雇用側、双方の「定着」「活躍」に対するギャップが生まれていると言えます。

では、このギャップはなぜ生まれるのでしょうか。その背景には、雇用側の、定着と活躍に対する捉え方と、それを踏まえた雇用対策に要因があると考えられます。

多くの企業が誤解する「定着」と「活躍」

「定着」と「活躍」の違いを考えてみます。
企業視点から考えると、定着志向とは、法定雇用率を達成するという大きな目的のもと、雇用した障害者が安定して就業し続けることを求める方針です。一方で活躍志向は、法定雇用率の達成にとどまらず、売上やコスト削減、事業創出、CSRなどへの貢献を求め、そのための成果や目標達成、能力発揮を重視する方針です。
つまり定着と活躍は、その方針や取るべき労務施策が異なるということが分かります。そして障害者の側も、定着したい人と活躍したい人とでは志向が異なるのです。

一般雇用では目標管理や成果によって評価・処遇が決まります。事業への貢献のため、責任や難易度の高い仕事を与えられ、自ら成長していくことが求められるケースが多いでしょう。
しかし、定着志向の強い障害者の場合、障害特性とうまく付き合いながら働く必要があることから、就業にあたって必要な配慮やマネジメントを受けながら、安定的に働けることが大切になります。そのような障害者に対して、成長志向を前提とした一般雇用の考え方を当てはめてしまうと、ズレが生じることになります。

反対に、必要な配慮が比較的少なく、高い労働意欲を持ち、一般雇用社員と同じように働き、業務の納期や品質を担保できる障害者もいます。そのような、目標達成やキャリアップ、活躍を求める障害者に対して、安定的に働きたい障害者と同じような配慮と処遇の選択をしてしまうと、やはりズレが生じる結果になります。

定着と活躍、その違いと必要な対策を見誤ると、雇用がうまく進まない結果になるのです。

障害者雇用に取り組む目的と、「定着」「活躍」の方針を合わせる

安定就業や配慮を求め、定着を重視する障害者と、生産性や成果を求め、活躍する障害者。同じ障害者雇用でも、「定着」と「活躍」では方針が異なり、取るべき雇用施策・・・雇用計画、業務、人材要件、採用、マネジメント、人事評価制度など・・・も変わってきます。
自社の雇用方針は「定着」と「活躍」、どちらを志向しているのか明確にしましょう。そのためには、自社が、障害者雇用に何を求めているのかという「目的」を明確にする必要があります。
職務能力や配慮の異なる障害者が、自分に合った職場環境やキャリアを選択し、長期定着・活躍できるための枠組みを作るために、まずは雇用の方針を明確にし、その方針と施策の整合性が取れているかを確認することが大切です。