法定雇用率の上昇や社会の変化によって、障害者雇用の拡大は一層、進んでいくと見られています。この記事では、これから障害者雇用に取り組む担当者の方向けに、日本の障害者雇用はどのように進んでいったのか、法制度や障害者手帳、配慮、雇用の進め方についての基本的な知識を紹介します。
それぞれの詳細やポイントについては、別の記事やパンフレット・ガイドブックなどで詳しく紹介していますが、それらの記事を読む前に、障害者雇用にあたっての概要や基本情報、ガイドラインについて、知っていただければと思います。

(※2021年3月10日更新:厚生労働省「障害者雇用状況の集計結果」令和2年発表の数値に更新しました)

目次

日本の障害者雇用政策の歴史

第二次世界大戦後、わが国では、帰国兵士を中心とした身体障害者(傷痍軍人)の雇用のために、法制度を整備することが急務となっていました。そこで、ヨーロッパにおいて主流であった法定雇用率方式を参考として、1960年に「身体障害者雇用促進法」が制定されました。これが、後の「障害者雇用促進法」の基となります。
1976年(昭和51年)に創設された雇用率制度により身体障害者から法定雇用率の算定基準に加わりました。それ以降、対象の障害は順次拡大され、1998年には知的障害者が、2018年からは精神障害者が新たに加えられ、雇用義務の対象となりました。

ちなみに、雇用“義務”対象というのは、必ず雇用しなければならない、というものではなく、雇用対象となる障害者の範囲に加わっている、という意味です。2019年2月現在、上に述べた「身体障害」「知的障害」「精神障害」の3つが、法定雇用率の算定基礎の対象となっています。

民間企業における障害者の雇用状況

出典:厚生労働省発表 「令和2年 障害者雇用状況の集計結果」

この図は、厚生労働省が2021年1月に発表した障害者雇用状況の集計結果のグラフです。障害者の就職数は年々増加していることが分かります。
身体障害者の雇用が最も高くなっていますが、これは上で見てきたとおり、わが国の雇用対策が身体障害者から進められてきたという経緯もあります。
過去10年間は知的障害者の雇用が促進され、各企業で雇用に関わるノウハウが蓄積されてきました。近年は、法定雇用率の上昇と精神障害者の雇用義務対象化によって精神障害者の雇用が増えており、今後も精神障害者の雇用を検討する企業は増えると予想されます。
受け入れ体制の構築や業務創出、人事評価制度の整備など、雇用のために考えるべき点は多く、様々な企業が解決策を模索しています。

企業にとって重要な「法定雇用率」

障害者雇用を進めるにあたって最も重要な制度は「法定雇用率」でしょう。「障害者雇用とは、法定雇用率を守る」ことだと考えている企業も多いかと思います。
法定雇用率とは障害者雇用促進法で定められています。制度の中身や自社雇用の計算方法など、詳しくは別の記事で紹介しますが、簡単にお伝えすると「労働人口における障害者の割合と同じだけ雇用しましょう」という制度です。
2021年3月より、民間企業の法定雇用率は2.3%に上昇し、今後も段階的に引き上げられることになっています。しかし、実雇用率は2.15%、法定雇用率の達成企業は48.6%で、半数以上の企業が未達成となっています。

障害者雇用が直面している変化

近年、障害者雇用を取り巻く環境が大きく変化しています。
まず制度面では、2016年4月に障害者雇用促進法が改正され、法定雇用率の上昇とあわせて「雇用分野での採用・賃金・配置などの差別的取り扱いを禁止」「合理的配慮の提供を義務化」「相談体制・苦情紛争処理課題解決支援の構築・整備」の3点が盛り込まれました。

制度面の変化に加え、経営的な観点からも、障害者雇用への注目が高まっています。CSR(地域社会との共生、共存共栄、従業員との関係)、業務効率化による事業貢献、労働力の確保などの効果が見直されています。
障害者に限らず、非正規雇用者や高齢者など、労働条件や労働環境の点で、何らかの『制約』を抱えて働いている人たちの活躍ができる状態とすることが求められています。

障害者雇用と障害者手帳

障害者として働くということは「障害者手帳を開示して働く」ということです。
手帳の種類は障害によって分かれています。
身体障害者は「身体障害者手帳」を取得します。肢体、視覚、聴覚、音声機能や言語機能、内部障害(心肺機能、免疫、腎機能、小腸、ぼうこうまたは直腸、呼吸器障害など)が該当します。
知的障害者は療育手帳と呼ばれる手帳を取得します。手帳は地域によって名称が異なりますが、主に「軽度・中度・重度・最重度」の4区分に分類されています。
精神障害者と発達障害者は「精神障害者保健福祉手帳」を取得します。気分障害(後天性。うつ病や双極性障害)、統合失調症、てんかん、高次脳機能障害、発達障害(ASD(自閉症スペクトラム・アスペルガー症候群)、LD(学習障害)、ADHD(注意欠如多動性障害))などが該当します。

手帳を取得するきっかけは人により様々です。障害への配慮や、安定的に働けることを優先するために手帳を開示する人もいれば、手帳を開示せず、一般雇用者と同様に働き続けたい、と思う人もいます。
つまり、本人の意思によって、どのような働き方をするのか、どのように働けるのかは異なるのです。
その一方で、手帳を取得・開示すべきか否か、どのように働くべきかについて、悩んでいる方はたくさんいます。
手帳の種類や障害名だけではその人の特性を判断することはできないため、一人ひとりの職務能力や特性を理解し、その人にあった就業機会や配慮を提供することが大切です。

精神障害者雇用における配慮

障害者が安定して働くにあたって、配慮はとても大切です。
障害者であっても労働契約を締結する以上、労務提供を行うことは大前提であり、雇用側は、障害者の安全と職務集中、安定就業のための環境調整を行うことが求められます。配慮は勤怠や業務、就業環境、管理、症状に対する配慮があります(ただし、配慮の提供は事業運営に影響のない範囲で問題ありません)。
雇用側から提供される配慮によって、業務での成果や安定就業、活躍が可能になるのです。

雇用の流れ、ガイドライン

最後に、雇用の大まかな流れについて簡単に紹介します。雇用方針や現在の雇用状況、社内体制や制度、環境など、障害者雇用において取り組むべき対策は企業により異なります。自社の状況を鑑みて、以下のような流れとポイントを踏め、取り組んでいくと良いでしょう。

雇用の計画

  • 雇用の目的と自社の理念の確認
  • 雇用計画の策定(雇用人数、雇用形態、業務、コスト試算、制度)

雇用準備

  • 職務内容の検討
  • 職務に必要なスキルの洗い出し
  • 給与や雇用形態、就業時間などを踏まえた募集条件の策定
  • 社内理解の獲得

採用~雇用後

  • 採用母集団の構築
  • 採用選考方法の確認と見直し
  • 受け入れ時のサポート体制、配属部署へフォロー、支援機関との連携