精神障害者の雇用数はこの数年で急増しており、今後の障害者採用の中心になると考えられています。2021年3月より民間企業における法定雇用率が2.3%に上昇したことを受け、精神障害者のさらなる雇用受け入れが求められます。その一方、採用後の定着や活躍、戦力化をどのように実現していくかという課題を抱える企業が増えています。
当社パーソルダイバースはオフィスワークを中心に900名以上の精神障害者を雇用しており、定着や生産性向上のための独自のマネジメント手法を実践しています。そこで今回は、当社の取り組みを基に、精神障害者の定着と生産性向上のためのマネジメント実例をご紹介します。

目次

精神障害者の雇用が難しい理由とは

精神障害・発達障害のある人には、「不安が勝手に大きくなっていってしまう」という特性があり、精神障害者の雇用が難しいとされる理由にもなっています。

ここでの不安とは、「自分でコントロールできそうにないこと」です。
職場には自分でコントロールしにくいものが多く存在しています。例えば上司とのコミュニケーションで、「言葉遣いを改めてもらいたいけど、言えない」「体調が悪いときに仕事を切り上げて帰りたいけど、言いだせない」などのケースがあるとします。この時に、上司や周囲にそのことを伝え、認められる職場であれば、その人にとって不安要素はないことになりますが、周囲に伝えられなかったり、抱え込んでしまうと、その不安が大きくなっていくということがあります。やがて不安はストレスにつながり、メンタル面の不調を意味する「メンタルダウン」を引き起こしてしまう可能性があります。

メンタルダウンを引き起こすと、身体や行動、感情や思考に以下のような症状が現れます。

身体に現れる症状 眠れない、疲れる、食欲がない、発熱・腹痛・めまいがする、など
行動に現れる症状 遅刻・早退・欠勤が増える、ケアレスミスが多くなる、判断を間違う など
感情・意欲・思考に現れる症状 イライラが強くなる、やる気がなくなる、考えがまとまらない など

精神障害の症状ではなく、“不安の原因”に対処する

パーソルダイバースでは、精神障害者の定着や生産性向上のためには、精神障害の症状ではなく、症状を引き起こす「不安の原因」に対処することが大切だと考えています。「その人の過去にどのような不安やストレスがあったのか」「それにより、どのような症状が現れたのか」を明らかにした上で、症状を引き起こさないよう、職場から不安材料を取り除いていくことです。
一般的には、企業が人材を採用する際、あらかじめ「この仕事ができる」、「自律的に仕事ができるので任せられる」という前提で採用しますが、障害者の場合、障害特性によって、電話対応やルール化されていない業務などへの対応が難しいケースがあります。一般的に企業が人材に対して「前提」として考えていることと、障害者の場合は少し異なるため、障害の特徴やそれによる影響を踏まえた上で、マネジメントを考えていく必要があります。
そのため、当社では「個人の能力に依存した仕事のさせ方はしない」「ルールは見えるようにしておく」などの対策を、組織全体で整えています。

精神障害の就労における「職場の不安」を把握、見える化する

不安の原因に対処するための第一歩として、職場の中にある不安要素は何かを把握し、それを「見える化」していくことが大切です。当社では、職場内の見えないもの(=不安を引き起こす要素)として、「成果物」「手順・優先度」「判断」「考え・コミュニケーション」「全体図」「必要な能力」の6つの要素が存在すると考えています。目に見えない6つの要素をドキュメントやチャートなどを活用し、できるだけ見える化しています。さらに、声や口頭での指示も見えないものの代表で、見える化することも、精神障害のある社員にとって大切と考えています。

オフィスの仕事は属人化する傾向にありますが、属人化によってその仕事が外からは見えなくなっていき、見えないことによる「不安」も大きくなるでしょう。属人化の状態をできるだけ分業化できる形にすることも、精神障害がある社員の就労における「職場の不安」を取り除く方法の一つと言えます。

メンタル状態を見える化する

当社では、業務の「見える化」にとどまらず、社員一人ひとりのメンタル面の「見える化」にも取り組んでいます。その理由として、「メンタル面の状態も見えないものの代表格である」と考えているからです。メンタルの状態は人によってそれぞれ見え方が異なり、マネジメントに支障がでる可能性があります。そのため当社では、メンタルの状態を客観的指標で判別し、誰でも同じ評価ができる仕組みを導入しています。

具体的には、メンタルの状態を5段階で指標化し、指標ごとに設定した判段基準を用いて「健康管理」「作業能力」「ヒューマンスキル」など、全17項目で社員一人ひとりのメンタルの状態を観察・評価しています。

例えば、睡眠が取れているかを観察・評価する場合は以下のような判断基準を設定しており、本人へのヒアリングを基に、どの状態にいるのかを確認します。睡眠が乱れるとメンタルが悪化していく経験をしている社員も多いため、睡眠状況の確認は重視しています。

1:良好状態 睡眠に乱れはない
2:安定状態 ほぼ決まった時間に寝起きできている
3:標準状態 月に何日か睡眠が乱れるが、概ね眠れている
4:要注意状態 寝ようと思っても眠れない日が続く
5:危険状態 朝まで眠れない日が続く

評価結果は、必要に応じて所属部署の上長や社内の健康支援担当、支援機関にも共有し、適切な対応につなげています。

不安に対処するマネジメントのコツ

不安に対処するマネジメントのコツは、「不安の早期発見・解決」と「定期面談の実施」です。
当社では、社員の不安を聞き出すための定期面談を実施しています。調子が良く見える社員に対しても1カ月に1回、5分程度でもリーダーとの面談を設定します。面談を通して、本人の健康状態に問題がないか、不安がないかを確認しています。
また、社員の不安をできるだけ小さいうちに見つけられるよう、管理職に、日頃の観察方法や不安の聞き方などを工夫するようにしてもらっています。日頃の意識やささいな行動変容も、不安の早期発見に繋がります。

まとめ

精神障害のある社員の定着、生産性向上のポイントは、安心してはたらける職場づくり、不安が生じた際に、組織としてすぐに対処できるよう整えておくことです。
そのために当社では「不安が勝手に大きくなる」という特性に注目し、「不安の原因」に対処しています。精神障害のある社員が職場で感じる不安とは何かを把握し、「見える化」していくことが大切です。見える化の対象は物理的なものだけでなく、社員のメンタル状態も対象にしています。

不安がないかを早期に発見し、対処すること、そのために定期面談の実施や不安の聞き方を工夫することも大切です。ぜひ、参考にしていただければ幸いです。