精神障害のある社員が多くはたらく当社では、日々さまざまなことが起きています。社員の悩みや課題に向き合う、「田町(兼目白)のジョブコーチ」が障害者雇用の日常、また、課題にどう向き合っているか紹介します。今回は特別企画の第3回として、楽天グループの特例子会社として障害者雇用に取り組む楽天ソシオビジネス株式会社の川島薫社長にお話しを伺いました。

2007年に設立した楽天ソシオビジネス様は楽天グループの特例子会社でありながら、2010年に黒字化を達成し業界をアッと言わせました。グループの業務の受託だけでなく、独自の事業を展開するなど稀有な存在としても知られています。

同社の川島薫社長は一社員と入社し、管理職から役員、社長へとステップアップ。また、自身も足に障害のある当事者です。個性ある経営方法や取り組みが注目され、近年はメディアにも頻繁に顔を出しています。一体どのようにして社員の意識を仕事へと向かわせ、モチベーションを管理しているのか、社員とどのように接しているのか、前々からお伺いしてみたいと思っていたところ、取材の機会に恵まれ、同社を訪問してきました。

障害者一人ひとりと心と心をぶつけ合うのが川島社長のスタイル

楽天ソシオビジネス様は東京都世田谷区玉川の楽天クリムゾンハウスに本社を構えています。従業員は2018年12月末現在で179名、うち、障害者が138名です。楽天グループの業務を受託するとともに、植物工場やコンビニエンスストア、クリーニング店、カフェテリアの運営なども手がけています。

障害者雇用では、社員との接し方・距離の取り方がマネジメントの重要なポイントの一つです。社員とどのように接していいかわからないという多くの声を聞きます。距離感を間違えて管理者側が疲弊することも少なくありません。川島社長はどのようにしているのでしょうか。早速聞いてみたところ、「明確に答えるのは難しいですが」と前置きした上で、「心対心でぶつかっています」との答えが返ってきました。

「人と人とのことですので、その人がどんな個性を持っているか、とことん知ろうとします。普通は、ここまでは聞いてはいけない、そこは触れてはいけない、というのがあると思いますが、私は気にしません。話しづらいことがあるかもしれないけど、『私を信じてほしい』と伝えます」。

特に距離感が難しいとされる精神・発達障害の方の場合はどうしているのでしょうか。「基本的には同じです。面接の時には履歴書を見ながら幼少期や家族、学生時代、前職のことを聞いて、なぜ障害に至ったかを知ろうとします。理由は同じことを繰り返さないため。長くはたらいてもらうには、知る必要があると思っています。言いにくいこともあると思いますが、『他には開示しないから私にだけは教えて』とぶつかっていきます。また、当社では、同じ障害のある人同士で自分の障害を語れるようにしています。それが、本当の意味での障害をオープンにすることだと考えています」。いわゆる配慮事項など、障害者との「壁」を軽々と越えていくのが川島社長のスタイルのようです。

障害者の成長や将来への期待が、モチベーションの源泉になる

面接・採用についても、独自性のある取り組みを行っていました。同社では新しく入社した社員には「5人をランチに誘うこと」という目標を課しているそう。誘われたほうもポイントとなると説明を受けましたが、それにしても高いハードルのように思えます。しかし、「これまでクリアできなかった人はいない」とのこと。中には、声がけをきっかけに人への抵抗が薄れる社員も出ているそうです。「対人恐怖症でぼそぼそと面接をしていた姿はどこへやらで、今では接客の仕事をしています」と川島社長。なんと同社では、精神・発達障害の方々の中でサークルが生まれ、独自に飲み会やスポーツイベントを開催しているそうです。こういった自発的にコミュニケーションが活発化する社風は、ぜひ見習いたいと実感しました。

同社は昨年から精神・発達障害者の大量採用を始めました。「戦力になるには2年かかる」と考えており、そのため、業績は一旦、赤字となっていると明かします。「2年後に黒字に返り咲くと明言しています。2年あれば人は成長できます。もしこの間に何の変化もなかったら、私を含め上に立つ者の責任です」。川島社長は熱意と決意を見せました。

川島社長は障害者を一人の社会人と見て成長を後押しします。「障害者だから」と安易に仕事を決めつけません。自らを卑下しモチベーションの上がらない社員には、時に「辞めてもらってかまわない」と厳しい言葉をかける一方で、「将来はチームや事業、会社を引っ張る存在になってほしい」と心からの期待も伝えます。同社には独自の評価・給与制度がありますが、それ以上に「将来への可能性を信じてくれていること」がモチベーションを引き出しているように思えました。川島社長の著書には「手帳を取得するなら、私が最後まで面倒を見ます」との一節もあり、その強い思いは社員に確実に伝わっているのでしょう。

川島社長の話は本当に驚きの連続で、人との接し方や距離感に正解はないと改めて認識しました。障害者雇用において、精神・発達障害者雇用が増えている現状、そして今後法定雇用率が引き上げられます。一つの過渡期を迎えた今、これまでのやり方が通用しないところも出てくるでしょう。同社のように社員の成長や業績を上げることを目的にするのなら、これまでの当たり前の手法では限界があるのかもしれません。自分なりのベストを探し続け、ますますいい仕事を実践していこうと気持ちも新たになりました。