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2021.12.09

コラム

 

大人の発達障害「グレーゾーン」とチェックするポイントを診断基準から解説

発達障害の「グレーゾーン」とは?症状があるのに診断がおりない理由や利用できる支援制度、自閉症スペクトラム障害(ASD)と注意欠陥多動性障害(ADHD)を中心に実際の診断基準(DSM-5)を元にしたチェック項目をご紹介します。

発達障害の「グレーゾーン」とは?

発達障害と定型発達

発達障害とは神経発達障害に分類される「脳機能の発達の偏り」に起因する、低年齢で症状が発現するものを言います。幼少期から典型的な傾向がみられ、大きく以下の3つに分類されますが複数の症状が重なることも多く、症状の現れ方は多様であるとされています。

「定型発達」とは

「神経学的定型」とも呼ばれ、発達障害をはじめとした「神経学的に多様な」人々の対義語として、神経学的な差異を持たない人を指す言葉です。ニューロ・ダイバーシティや障害の社会モデルに根差す呼び方であり、1990年代初頭に発足したセルフ・アドボカシー団体「Autism Network International(国際自閉症ネットワーク)」が提唱の起源とされますが、後天性であるうつ病なども含めた「神経学的多様」の対義語として使われるようになったのは最近のことです。

発達障害のグレーゾーンって?

「発達障害のグレーゾーン」とは、定型発達でも発達障害でもない「発達障害の傾向がある」方々を指す言葉です。次の章で詳細に触れますが、うつ病をはじめとした精神疾患や自閉症スペクトラム障害や注意欠陥多動性障害に代表される発達障害の診断には国際的に利用される『DSM-5』という診断基準があります。その基準を1つでも満たさなければ、確定診断は下りずに「グレーゾーン」となる可能性が高いのです。

DSM-5(精神障害の診断・統計マニュアル第5版)とは?

DSMとは、米国精神医学会(APA)が出版している、精神疾患の診断基準・診断分類です。正式名称は「精神疾患の診断・統計マニュアル(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders)」といい、頭文字をとってDSMと呼びます。2013年5月の米国精神医学会(APA)の開催に合わせて刊行され、世界保健機関(WHO)が発行する「国際疾病分類(ICD)」と併せて日本でも精神疾患の診断に用いられています。

※従来「障害」と訳されていた「Disorder」ですが、2014年『DSM-5病名・用語翻訳ガイドライン(初版)』の策定に当たった日本精神神経学会 精神科病名検討連絡会にて児童青年期の疾患と不安関連の疾患において「~症」と訳すことに決まりました。Neuro Diveでは当面「障害」「症」の両方を適宜利用しています。

発達障害の確定診断にならない理由とその背景

前述の通り、診断基準を1つでも満たさなければ「グレーゾーン」となりますが、自ら発達障害の特性を確信してもなお、診断が下りない理由を探ってみます。

「社会生活を送る上での困難さの程度」が顕在化していない

例えば、特性があっても環境に恵まれているなど、生活面や修学・仕事面において大きな困り感がないという状況では医師が積極的に診断を下さないということがあります。
複数の状況下で特性が顕在化し、それにより周囲や本人を含めた社会生活に困難が生じているレベルであることが診断の要件となります。

幼少期の記憶が曖昧・情報不足

発達障害の診断においては「発達早期から症状が存在」していることが認められなければなりません。要するに幼少期のことを覚えていないなどの場合において医師は確定診断を下すことが難しくなります。
また、児童精神医学の分野では欧米と比較して30~40年遅れているとも言われており、幼少期に診断が下りずに大人になった人の中には、症状が寛解する方もいれば、「生きづらさ」を抱え続けた結果、うつ病など様々な二次障害を罹患し、それが診断の難易度を高めています。
境界があいまいな連続性(スペクトラム)を伴うその症状は、専門医でも診断が難しいことに加え、二次障害となる別の疾患が表面化することで診断の難易度をさらに上げていること、確定診断の要件である「発達早期から症状があった」ことを証明することの難しさから、「大人の発達障害」だと思ってもグレーゾーンとなりやすいのです。
こうした事態を回避するためには幼少期を知る周囲の大人に同行してもらい、診断を受けるなども検討されてみてください。

結局は医師の「主観」に依る

先述の通り、診療には一定の診断基準が存在しますが、問診を中心とした臨床においては、欧米に比較して医師の熟練度の違いや「主観の違い」も大きく作用すると考えられています。必要に応じて確定診断に向けてセカンドオピニオンを求めることも一手です。お住まいのエリアに専門医を探したい場合は「発達障害者支援センター」に問い合わせて見るのも良いでしょう。同センターでは医療機関受診前の相談ができ、適切な医療機関や就労支援機関の紹介も行っています。

このように、発達障害診断を取り巻く医療の遅れ・診断の難しさ・社会生活における障害の程度等の様々な事情により特性があっても「グレーゾーン」となってしまうケースが多いのが実情です。
確定診断が下りないことで起きる「制度上の困難さ」と「利用できる支援制度」にはどういったものがあるでしょうか。

発達障害「グレーゾーン」は障害者手帳を取得できるのか?

結論から言いますと、確定診断に至らないグレーゾーンの方は障害者手帳を取得できません。
確定診断があれば精神保健福祉手帳の交付が可能です。また、「精神障害者保健福祉手帳診断書」には「国際疾病分類 第10版(ICD-10)」に定められる病名と対応するコードの記載が必要です。これは、WHO加盟国である日本において疾患統計の報告にはICDが用いられることになっているためです。
ただ、前述の通りうつ病等の二次障害を併発している場合は、それらの疾患により「精神障害者保健福祉手帳」を取得できる可能性がありますので、医療機関に相談してみるとよいでしょう。

グレーゾーンの方でも利用可能な支援機関

一般枠か障害者雇用枠かしかない日本の雇用制度において、手帳が取得できないグレーゾーンの方々の中には特に就業面で大変な困り感を抱える人も少なくないでしょう。 グレーゾーンの方でも利用できる代表的な支援機関を見てみます。

ハローワーク(公共職業安定所) 障害者手帳や診断書がなくとも相談できます。職業適性に関する各種相談やキャリアカウンセリング等を受け付けています。
自立支援医療制度 精神医療や通所型リハビリテーション(デイケア等)利用の負担額が軽減される制度です。各都道府県別の制度で、地域により若干の違いがあります。注意点としては勤務先の会社が所属する健康保険組合に制度利用の通知がいく点です。各自治体の保健センターが窓口になります。
地域障害者職業センター 就労とリワーク支援、職場定着への専門的な支援を行っています。手帳の有無を問わず利用できますが、就職に際しては各種支援制度の多くが、障害者手帳を必要とする点に留意が必要です。
発達障害者支援センター 就労支援や、発達障害の方・ご家族の日常生活など全般的な支援を行っています。前述の通り医療機関受診前の相談が可能で、適切な医療機関や就労支援機関を紹介してもらえます。
障害者就業・生活支援センター(なかぽつ) 就労面・生活面問わず全般的な相談が可能です。全国に300か所以上設置されています。手帳の有無を問わず利用可能です。相談は原則無料ですが、利用には登録が必要です。
就労移行支援事業所 一般就労に向けて訓練を行う支援機関です。原則、診断があれば利用できます。「グレーゾーン」の方は医師の意見書があれば利用できる可能性がありますが、自治体毎により異なります。民間企業をはじめNPO法人など地域行政に委託された企業が運営し、2019年時点で全国に約3,400もの事業所が存在、事業所によって習得できるスキルや講座内容にバリエーションがあります。

Neuro Diveとは

Neruro Dive(ニューロダイブ)は発達障害を中心とした精神障害のある方に向けて就労移行支援事業を、「グレーゾーン」や現職中の方々には有料のオンライン学習サービス「Neuro Dive Online」を展開しています。発達障害の特性がある方々の就労における活躍機会の向上に向け、「機械学習・AI」「デジタルマーケティング」「ビジュアライズ」「業務効率化」の4つを主軸にビジネスで活用できる実践的なプログラムを提供しています。先端(高度)IT人材不足による市場ニーズの高まりを受け、求職者サイドであるNeuro Diverseな方々に向け、専門ITスキルの習得、継続してはたらくための特性の活かし方や苦手な部分への対応方法を学べる講座群です。

アメリカ精神医学会による精神疾患の診断基準・診断分類「DSM-5」による神経発達症群(神経発達障害)

発達障害に該当するかのセルフチェックの前に、医学上の神経発達障害の分類と2013年の改版概要を、自閉症スペクトラム障害(ASD)と注意欠陥多動性障害(ADHD)を中心に見ていきます。

DSM-Ⅳ(1994年) DSM-5(2013年)
通常、幼児期、小児期、または青年期に初めて診断される障害 精神遅滞 神経発達障害 知的障害
広汎性発達障害 自閉症スペクトラム障害
注意欠如および破壊的行動障害 注意欠如・多動性障害
学習障害 限局性学習障害
運動能力障害 運動障害
チック障害
他の神経発達障害
幼児期または小児期早期の哺育障害、排泄障害、幼児期・小児期または青年期の他の障害

主な発達障害の改版概要

広汎性発達障害(PDD)から自閉症スペクトラム障害(ASD)へ

従前の広汎性発達障害は「Pervasive Developmental Disorders」の和訳です。「Pervasive」は直訳で「普及する・しみ通る」の意で、「広汎性」と訳されたものの、当該疾患は脳の特定領域での機能不全であることから、より相応しい命名に変わったと言えます。

また、自閉症、広汎性発達障害、アスペルガー症候群などの下位分類は廃止され、自閉症スペクトラムに一本化された理由としては、自閉症とアスペルガー症候群の境界は不明確で、症状間の移行もあり、本質的特性に差異がないためです。

症状に関する分類も変更

第4版(DSM-4)においては以下の3つがASDの症状とされていましたが、1と2は重複する領域であることから、現在では「社会的コミュニケーションと対人相互交渉の障害がさまざまな文脈において持続的に認められること」「行動・興味・活動の限定された反復的な様式」の2点に集約されています。

  1. 対人的相互反応における質的障害
  2. コミュニケーションの質的障害
  3. 行動・興味・活動の限定された反復的で常同的な様式
ASD発現年齢の変更

その他の変更点として「症状発現年齢」が挙げられます。第4版では「3歳まで」とされていたものが「発達期早期から存在」となり、社会的要求が大きくなってからの顕在化も許容されるようになりました。

注意欠陥多動性障害(ADHD)の変更点

4版で「7歳より前」と定義されていたのに対して、第5版(DSM-5)では「12歳より前」と改訂されています。

また、第4版では「ADHDとASDの症状が同時にみられた場合の診断はASDのみとする」除外規定がありました。これにより、「ASD者の不注意症状の見逃し」が危惧されていたほか、ADHDと診断されていた方で、年齢を重ね社会的要求が高くなってから社会性やコミュニケーションの問題が顕在化しASDの診断基準も満たすようになった場合、既往症のADHD症状が続いていても、ADHDからASDへの診断変更が必要でした。第5版ではASD除外規定を無くしたことで、境界があいまいな連続性(スペクトラム)を伴う症状の実態に沿えるようになった他、臨床上の不利益を未然に防ぐことができるようになりました。

診断前のチェック、DSM-5の診断基準とは

ご自身が「発達障害かも」と思われる方に、傾向を把握する事前セルフチェックとして「アメリカ精神医学会 精神疾患の診断基準・診断分類 第5版(DSM-5)」の診断基準を一部ご紹介します。但し、あくまでも確定診断は病院での医師による診療に依る点にご留意ください。

自閉症スペクトラム障害(ASD)の傾向把握

実際の臨床の現場では、以下の診断基準を元に自閉症スペクトラム障害を診断しています。また心理検査やその他障害の可能性排除を目的とした鑑別検査を行う場合があり、病院によって受診の流れは異なりますので、詳しくは問合せてみると良いでしょう。

  1. 複数の状況下における社会的コミュニケーションおよび相互関係の持続的障害で以下の3点で示される
    診断項目 症例
    (1)社会的・情緒的な相互関係
    • 他者と適切な距離感をもって接することが難しい。
    • 他者と興味や感情を共有することが少ない。
    • 自身の関心事のみに話が集中し,会話が一方通行になりやすい。
    (2)他者との交流に用いられる非言語的コミュニケーション アイコンタクトや身振りなどのボディランゲージ、顔の表情などの非言語的手段を適切に用いたコミュニケーションが不得意。
    (3)年齢相応の対人関係性の発達や維持
    • 様々な社会的状況に応じ,臨機応変に振る舞うことが難しい。
    • 他者に対する興味の欠如により友人関係を構築することが難しい。
  2. 行動、興味、または活動の限定された反復的な類型が2つ以上あること
    診断項目 症例
    (1)常同的で反復的な運動動作や物体の使用、あるいは話し方。
    • 単純な常同運動(身体を揺す・指を鳴らす等)
    • 反復的な物の使用(小銭を回す・おもちゃを一列に並べる等)
    • 反響言語(相手と同じ言葉を繰り返して言う)がみられる。
    (2)同一性へのこだわり、日常動作への柔軟性に欠ける執着、言語・非言語上の儀式的な行動パターン。
    • 小さな変化に対する極度の苦痛、例としてルーチンとしていることに突然の変更などが加わると抵抗を示したり、パニック状態に陥る。
    • 思考における柔軟性がない。
    • 儀式的行為、例えば儀式的な挨拶・毎日同じ道順をたどる・毎日同じ食事を摂ることなどにこだわる。
    (3)集中度・焦点づけが極度に強くて限定的であり、固定された興味がある。
    • 一般的ではない対象への強い愛着または没頭(鍋や掃除機に強く惹かれる等)
    • 過度に限局または固執した興味(公共交通の時刻表を何時間も書き出す等)
    (4)感覚入力(刺激)に対する敏感性にもしくは鈍感性、あるいは感覚に関する環境に対する普通以上の関心。
    • 痛みに過度に反応する(注射を過剰に怖がる等)
    • 特定の音に対して敏感(ドライヤー・子どもの泣き声等を過度に苦痛に感じる)
    • 対象を過度に嗅いだり触れたりする
    • 光や規則性のある動きがあるものを見ることに熱中するなど。
  3. 発達早期から上記2つの症状が存在していること
  4. 発達に応じた対人関係や学業・職業的な機能その他の重要な機能が障害されていること
  5. これらの障害が、知的能力障害(知的障害)や全般性発達遅延では説明ができないこと

注意欠陥多動性障害(ADHD)の傾向把握

次に、注意欠陥多動性障害の医療現場で用いられる診断基準を見ていきます。

  1. 以下の「不注意症状」の内該当するものが6個(17歳以上では5個)以上あり、しばしば6ヶ月以上にわたって持続していること
    1. 細部に注意を払うことができず、ケアレスミスをしやすい
    2. 仕事や遊びの最中に注意を持続することが困難
    3. 上の空・注意散漫で、話をきちんと聞いていないように見える
    4. 指示に従えず、課題を最後までやり遂げることができない
    5. 課題や活動を順序立てて整理することができない
    6. 精神的努力の持続を必要とする課題に取り組むことを嫌う
    7. 課題や活動に必要なものを紛失する
    8. 外部からの刺激で容易く注意散漫となる
    9. 日常生活においてもの忘れが多い
  2. 以下の「多動性・衝動性」の内該当するものが6個(17歳以上では5個)以上あり、しばしば6ヶ月以上にわたって持続していること
    1. 手足をそわそわと動かしたり、身をよじったりすることが多い
    2. 着席が期待されている場面で離席する
    3. 不適切な状況で走り回ったり高いところに登ったりする
    4. 静かに遊ぶことが困難
    5. 衝動に駆られて動かされているような行動が多く、じっとしていられない
    6. 過度にしゃべりすぎる
    7. 質問が終わる前に衝動的に答え始める
    8. 順番を待てない・待つことが苦手
    9. 他者の邪魔をしたり、遮ったり割り込んだりする
  3. 上記該当の症状のいくつかが12歳前に見られること
  4. 上記該当の症状のいくつかが2つ以上の環境(学校・職場・家庭・社交の場など)で見られること
  5. 症状により社会・学業・職業機能が妨げられていること
  6. これらの障害が、統合失調症や他の精神疾患によるものではないこと

確定診断には「不注意優勢型」と「多動性・衝動性優勢型」がある

「不注意優勢型」の診断には6つ以上の不注意の症状に該当することが必要です。同様に「多動性・衝動性優勢型」の診断には6つ以上の多動性・衝動性症状に該当することが必要です。「混合型」は、不注意と多動性・衝動性のそれぞれで6つ以上の症状があることが要件となります。

また大人の場合、多動性・衝動性が外面的に目立たなくなり、不注意が相対的に目立つようになることが分かってきています。「多動性・衝動性優勢型」の傾向が強い方は特に、幼少期を知る周囲の大人に同行してもらい、診断を受けることが重要になるでしょう。

まとめ

「グレーゾーン」とは何か、利用できる支援制度、実際の診断基準(DSM-5)を元にしたチェック項目をご紹介しました。
発達障害の傾向があっても、全ての診断要件を満たさないことで「グレーゾーン」となった方の中には、確定診断に至った方と同等の支援を必要とする人も多いと思います。
私たちパーソルダイバースでは、先端(高度)IT領域でグレーゾーンの方でも利用可能な「Neuro Dive(ニューロ・ダイブ) Online」をはじめ、首都圏を中心に就労移行支援事業所「Neuro Dive」を展開しています。
適職探しやスキルアップ、特性への対処方法を学びたい方はぜひ一度「Neuro Dive」にご相談ください。説明会を随時開催しています。