寄稿 1

発達障害のある学生の支援

松為 信雄(まつい のぶお)さん

・文京学院大学 人間学部 人間福祉学科 客員教授
・厚生労働省労働政策審議会障害者雇用分科会委員
・日本精神障害者リハビリテーション学会常任理事
・「ニッポン一億総活躍プラン」フォローアップ会合 議員

発達障害のある学生への支援

発達障害のある学生の支援は、ますます必要になってきます。(独)日本学生支援機構による平成27年度の調査では障害のある学生の占める割合は0.68%ですが、その中で、発達障害のある学生は約1,000人に一人(0.1%程度)ということです。ただ、大学の現場での実感としては、その10倍の1%は確実にいるという人もいます。
大学生における発達障害のある人は、知的障害を伴うケースはまれですが、その一方で、多くは周囲の人々との関係がうまくいかないで、対人関係面での不安感を強く持っていることが指摘されています。また、強みと弱みが混在する発達的な不均等さに特徴があり、能力のアンバランスさが要因となって大学生活での不都合を生じさせているようです。

こうしたことから、発達障害のある学生の支援で基本となることは、能力発達の不均衡な特性を「矯正」するのではなく、彼らのユニークさを生かすような支援を目指すこと、特性の秀でた部分や強みを発揮できるような環境を作っていくことだと思います。そうした環境を作り出すためのアイディアを出し合い、方策を練り、よりよい環境を作りだしていくプロセスを学生と共に歩みながら作り出してゆくことにあると言えます。

能力発達が不均衡であることは、個人差が著しいことを意味します。そのため、自分の特性に対する自己理解と他者理解のズレが大きいほど、社会生活は困難になりますから、就職活動に際しては、自分を知ることが最も大切になります。発達障害の特性を把握したうえで、自分自身の強みや弱みを理解し、自分に合う仕事を見つけてほしいと思います。また、自身の特性を理解する過程で必要な配慮の内容についての理解を深めて、周囲にそのことを伝える事も大切になります。周囲から適切な配慮を受けることができれば、自分の働きづらさが軽減して、強みを活かして社会で活躍しやすくなるからです。

 

発達障害のある学生の卒業後の進路

では、発達障害のある学生はどのような卒業後の進路があるのでしょうか。一般的には、通常の企業などで障害のない人と同様の雇用関係で就職する場合のほかに、障害者手帳を取得して障害者雇用促進法に規定された法定雇用率の枠で就職することも可能です。また、前者の場合でも、自分の障害状況を企業に伝える(オープン)か伝えないか(クローズ)を選択することも可能です。ですが、これらの選択の仕方によって、就職活動や就職後の業務で違いが出てしまいます。そのため、これらの進路選択の違いを十分に把握し、働くことを踏まえた将来設計(キャリア)を考慮しながら選択することが必要になるでしょう。

 

発達障害のある学生のキャリア設計とその達成に向けた活動を支援する「コミュニケーション・サポート・プログラム」

こうした発達障害のある学生の特性や課題などを踏まえた支援を提供するのが、「コミュニケーション・サポート・プログラム」です。
障害学生に対する支援は、丁寧に聞くことから始まります。支援者と共に振り返りを行いながら、支援者は学生の実行を支える支援を根気強く行っていきます。支援者はできるだけニュートラルな態度で学生が体験したことや学生が思ったことを聞き、まとめ上げていくので、学生は心理的に揺さぶられることなく、また、追い詰められることなく、自分自身の視点からの出来事を語り続けることができます。こうしたプログラムをとおして、自己の特徴とそれへの対処(配慮)についての理解を深めながら、そのことを周囲に伝える能力を高めていきます。

「コミュニケーション・サポート・プログラム」は、学生が自分のキャリアの設計とその達成に向けた活動を支援します。それは、支援者と発達障害のある学生との協働によってこそ成果が得られます。学生に寄り添い、その体験世界に共感的な理解を持ちながら共に実践と対話を積み重ねていく。そうした支援ネットワークを作り上げてゆく契機なのです。

PROFILE

松為 信雄(まつい のぶお)さん

早稲田大学大学院心理学専攻。卒業後、雇用促進事業団職業研究所(現:労働政策研究・研修機構)研究員。
日本障害者雇用促進協会(現:高齢・障害・求職者雇用支援機構)障害者職業総合センター主任研究員、東京福祉大学教授、神奈川県立保健福祉大学教授を経て2013年より現職。専門は職業リハビリテーション学。
著書に『発達障害の子どもと生きる』(幻冬舎ルネッサンス新書)、『これでわかる発達障がいのある子の進学と就労―充実した子どもの将来のために』(成美堂出版・共著)などがある。